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ビジネスリーダーに必要な規範、道徳、歴史を学ぶことの意味

2018年11月15日

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昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員
豊島逸夫事務所 副代表
治部 れんげ

 前回のコラムでは、社会人の学びにおいて、自分では必要性に気づきにくい分野に触れる機会があることが、大学院に通う意義だと書きました。今回はその実例をお示ししましょう。

 2018年4月26日「日経DUAL」というウェブメディアに私が執筆した以下の記事です。

元財務次官のセクハラ/課題はメディア経営にあり
経営者は良心的な男性の声にも耳を傾け、おかしいことは「おかしい」と明言せよ
https://dual.nikkei.co.jp/atcl/column/17/101200003/042400094/

 タイトル通り、テレビ局の女性記者に対するセクハラ容疑で財務事務次官が辞任したケースについて書いたものです。次官はセクハラの事実は否認したまま辞任を申し出て、閣議による了承を得て辞任が確定しました。

 セクハラ問題の本質は被害者に対する人権侵害です。ただ、今の日本の法制度には、今回のようなケースを禁じたり罰したりする規定がありません。経済メディアの読者に対して説得力ある原稿を書くにあたり「人権」以外の切り口が必要だと私は考えました。

 そこで思い出したのは、つい1カ月前に修了したHMBA(現、経営分析プログラム)で受講した「経営組織」、「ビジネスヒストリー(経営史)」、「経営哲学」で学んだ事柄でした。

20181113shibusawa.jpg 例えば「経営組織」では、アメリカの法廷映画を素材に、組織が多数派の怠慢により、間違った意思決定をしそうになった時、いかにして流れを変え、本来やるべき仕事をなすかといった規範の問題を扱いました。また「ビジネスヒストリー」では、日本の経済的な基盤を作った時代の経営者が何を考えて新しい事業を興したのかを様々な事例から学びました。そして「経営哲学」では、一橋大学の基礎を作った渋沢栄一の思想や価値観に触れつつ「経済合理性と道徳的な価値は長期的には一致する」ことを学びました。

 このような経営や経済の教養を踏まえたら、立場の弱い取引先を搾取するような行為は到底、正当化されません。また、加害者個人のモラルを問うことに加え、被害者の働く環境について見て見ぬふりをしてきたメディア企業の人材マネジメントにも責任がある、と私は考えました。

 本コラムのスペース制約上、記事のどの文言が講義のどの部分から影響を受けているか、詳細を記すことはできませんが、ご興味のある方は是非、ご自分で考えてみていただけたら、と思います。

 経営学やビジネススクールというと「お金儲けの方法を教えるところ」と思われるかもしれません。ただ、一橋の経営学修士課程においては、道徳規範や組織を正しい方向にリードする要因、道徳と経営の一致について、様々な講義で伝えていました。こうした内容は、すぐに役立つものではないように思えて、実は今まさに必要な視点と言えるのです。

(注:「ビジネスヒストリー」の内容は、2018年度から「経営史」(商学部)で聴講可能です。)

 

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HUB-SBA(経営管理専攻)では、現在、国際的なビジネススクールの認証(AACSB)取得を目指しています。ミッション(使命)の、「L」は「リーダーシップ(統率)」、「I」は「イノベーション(革新)」、「I」は「インテグリティ(高潔)」を意味しています。

治部 れんげ プロフィール

1997年、一橋大学法学部卒。日経BP社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学大学院経営学修士コース(HMBA)修了。日経DUAL、Yahoo!ニュース個人、東洋経済オンライン等にダイバーシティ経営、女性のエンパワーメントについて執筆。現在、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京大学情報学環客員研究員。日本政府主催の国際女性会議WAW!国内アドバイザー。2019年日本が議長国となるG20の公式エンゲージメントグループWomen20(W20)運営委員。東京都男女平等参画審議会委員(第5期)。公益財団法人ジョイセフ理事。一般財団法人女性労働協会評議員。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)等。2児の母。

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