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経営管理研究科博士後期課程の宇野舞さんと青木哲也さんが第7回碩学舎賞の最優秀賞、優秀賞をそれぞれ受賞

2022年04月01日

2021年12月、若手研究者による経営学分野の研究活動を支援する第7回碩学舎賞の最優秀賞を宇野舞さんが、同賞の優秀賞を青木哲也さんが受賞しました。宇野さんは本学大学院経営管理研究科研究者養成コース博士後期課程に在学中、青木さんは同博士後期課程を2022年3月に修了、4月からジュニアフェローとして研究を続けています。


現在の研究テーマについて教えてください。

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宇野舞さん

宇野舞(以下、宇野):私は、BtoB企業によるマーケティングや営業、またそれをどのように管理するのがよいのかに関心を持って研究を進めています。学部生時代も、現在の指導教員の山下裕子先生のゼミで学んでいたのですが、当時はBtoC領域のマーケティングに関心がありました。卒業後に、BtoBのITサービス企業で3年間働いたことで、BtoB領域に興味を持つようになりました。

青木哲也(以下、青木):現在の中心テーマは、プラットフォームに参加する企業の戦略です。今、アマゾンやグーグルなど、プラットフォーマーと呼ばれる企業が注目されており、それを対象にした研究も数多く見られます。しかし、現実にはプラットフォーマーよりも、そのプラットフォームの上でビジネスをする企業が多く存在します。そこで、後者の企業がプラットフォーム上でどのように振る舞うことが戦略的に有効なのかを明らかにしたいと思っています。

宇野さんは「B2B事業における新製品開発への顧客関与を促す戦略的営業」というテーマで最優秀賞を、青木さんは「オンライン・プラットフォーム参加企業の競争戦略」というテーマで優秀賞を受賞されています。それぞれ、どのような内容なのでしょうか。

宇野:私の場合はまだ、賞の対象となった研究の途上なので、結論ではなく目指しているもの、問題意識をお話しします。特にBtoB領域において、企業が顧客の問題を解決するには、その顧客に深く入り込むことが不可欠です。しかし、顧客に深く入り込むには労力も時間もお金もかかるため、全ての顧客に同様に取り組むことは困難です。そこで、どの顧客に深く入り込むかの選定にあたっては、後に横展開しやすいかどうかという視点が必要です。つまり、横展開可能な顧客を見つける、その顧客に深く入り込んで問題を解決する、その顧客とよく似た問題を抱えた顧客を見つけて横展開する、利益を上げるという流れが必要なのです。では、その流れを実現するにはどのようなマーケティング組織、営業組織が必要なのかというのがこのテーマの出発点です。

青木:賞の対象となった研究テーマは、博士論文としてまとめて提出しました。さて、その内容ですが、プラットフォームとそうでない市場の最大の違いは、リコメンドシステムの有無であると考えています。リコメンドシステムは、私が「マルチブランドバイヤー」と呼ぶ自社製品も他社製品も買う顧客、つまり、これまで企業が見落としていた、ロイヤルカスタマーではない顧客層の重要度を上げるのではという仮説を持ちました。そこで、プラットフォームとしてYouTubeを、その中のミニ市場としてバーチャル・ユーチューバー(Vチューバー)市場を選び、再生数が多いVチューバー動画にはどのような特性があるのかを調査しました。YouTubeを選んだのは、視聴履歴が比較的容易に獲得できること、それからVチューバーは2016年頃に登場したものなので、その誕生から勃興までをしっかりと追えると考えたからです。約41万件の動画、約2150万件の視聴履歴からは、想定通り、マルチブランドバイヤーの役割を果たす視聴者が多いと、プラットフォームによってリコメンドされる確率が上がり、新規獲得顧客(視聴者)が増えることを示せました。

研究者を目指したきっかけを教えてください。

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青木哲也さん(向かって左)
沼上幹教授(右)

青木:父が小さな会社を経営していることもあり、私自身も実務家志向が強いと自覚しています。一橋大学商学部を選んだのも、いずれは起業したいという思いがあったからでした。ただ、学部時代には1年間交換留学をしたことで就活のタイミングを逃してしまい、指導教員である沼上幹先生に相談したところ、「君は理論的な思考を鍛えた方がいい」とアドバイスをいただき、MBAコースでなく研究者養成コースの修士課程へ進みました。そこで学ぶうちに、研究者として実務に関わっている方も少なくないと知るようになり、また、実務家志向が強い自分だからこそ、実務家と研究者をつなぐ架け橋になれるのではと考えるようになり、現在に至っています。

宇野:ITサービス企業ではシステムエンジニア(SE)でしたが、ビジネスの現場で3年を過ごすうちに、様々な問題意識を持つようになりました。また、SEとして偶然、図書館システムを担当することになり、BtoB分野の論文を検索して読むなどしたところ、研究をして論文を書くことにより自分の問題意識を昇華させる道もあると気づいたのです。そこで、将来を考え直しました。金銭面、年齢面などいろいろ悩みましたが、最も心躍る選択肢が大学院への進学でした。研究者養成コースを選んだので、修士課程終了後、博士課程に進むことに迷いはありませんでした。

今後に向けて、抱負をお聞かせください。

青木:経営学を研究していく以上は、経営者の問題の解決に対する責務を負うと思っています。もちろん、知の地平の開拓も大きなテーマではあるのですが、その地平は経営者のために拓かれるべきだと考えているので、実務家の方とも常に関わりながら貢献をしていきたいです。

宇野:私はまず博士論文をしっかりと書かなければならないのですが、その先では、青木さんが言われたように、経営者・実務家の方の課題解決に貢献できる研究をしていきたいと思っています。そのような研究者になるためにも、私にはもっと心の強さが必要だと痛感しています。論文をリジェクトされても「自分のやっていることには価値がある」と信じられる力を身につけていきたいです。

青木:同感です。研究者養成コースは、「5年間しっかり学べば研究者として一人前になれる教育を施す機関である」と聞いていますが、5年間にとどまらず、その先も研究を続けていける意志の強さこそが、最も重要なのかもしれません。

(対談収録 2022年3月)


第7回「碩学舎賞」受賞者のお知らせ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000050577.html

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