HUB-SBA MAGAZINE

みずほ証券×一橋大学 ワークモチベーション・健康経営・ESGの学際領域に関するカンファランス

2023年05月18日

3月13日、千代田キャンパスにおいて、「みずほ証券×一橋大学 ワークモチベーション・健康経営・ESGの学際領域に関するカンファランス」が行われました。一橋大学とみずほ証券は、かねてより企業金融に関する教育・研究の充実を図るため、金融や経営に関する寄附講義の開設や共同研究などを進めてきました。その中で3年前から、より実践的なテーマとして「医療・健康経営」「人事マネジメント」「ESG」といった観点からモチベーションと組織開発について考える共同研究にも取り組んでいます。

今回のカンファレンスではその成果報告会として、研究者が一堂に会し、相互に関係し合う学際領域を議論しました。3つのテーマは、それぞれ独立して研究が進められていますが、互いに関係し合っており、それぞれの研究成果を披露した上で、他の領域からの質問や意見が交わされ、互いに大いに刺激となるディスカッションが展開されました。

■医療セッション(医療・健康経営)

冒頭に経済産業省 商務・サービスグループヘルスケア産業課課長の橋本泰輔氏より、基調講演として、政府の健康経営政策についての紹介がありました。続いて、臨床心理学が専門の慶應義塾大学 総合政策学部教授・島津明人氏からワークエンゲージメントと健康の関係に関する研究の報告がありました。これに対し、職場マネジメントや心理学的観点からも意見が出され、活発な議論が行われました。

続いて、杏林大学 保健学部准教授・佐野恵美香氏と同学教授・荒添美紀氏から、看護基礎教育の現場においてICTを活用した取組みについての紹介がありました。特に、実習の様子を撮影し、あとで振り返り学習することで授業への参加意欲が上がったといった成果が報告されました。

加えて、一橋ビジネススクール 経営管理プログラム第1期生で、現在は順天堂大学 医学部教授の和田裕雄氏から、医療界における自己主導型学習とモチベーションの関係についてこれまでに行われた類似の研究について解説がありました。その後の議論において、学習と仕事の心理状態の違いについて意見が交わされ、例えば、学習の場では、長時間でも「楽しい」というフィードバックが得られており、それがモチベーションにつながるという報告は健康経営を考える上で貴重な示唆となりました。

■人事マネジメントセッション

このセクションでは、京都産業大学経営学部助教・シンハヨン氏から、ワークエンゲージメントとワーカホリズムについて、他者のために行動する「向社会的」モチベーションとの関係を中心に分析する研究の報告がありました。これに対し、東京都立大学大学院経営学研究科教授・高尾義明氏より、想定する他者が最終顧客か職場の同僚かによってもモチベーションが変わりうる、とのコメントがあり、「向社会的」の解釈について議論しました。

次に、本学の経営管理研究科博士課程後期・猪瀬廉太郎さんより「Thriving at Work(TAW)」すなわち、従業員が「活力感と学習感を感じている心理状態」についての研究が報告されました。これについて法政大学大学院 政策創造研究科教授・石山恒貴氏からは、近年リスキリングに注目が集まる中、本研究においてTAWが上がる要因解明が進めば極めて実践的で、有意義な研究になると期待が寄せられました。

続いて、(当時)本学経営管理研究科・島貫智行教授(現在、中央大学教授)より、雇用主ブランディングについて、優良派遣事業者認定と派遣事業所を事例とした研究報告がありました。法政大学 キャリアデザイン学部教授・坂爪洋美氏からは、第3者評価による雇用主のブランド価値の向上効果について、派遣事業者を対象とした研究は他になく、有意義であるとのコメントがありました。

■ESGセッション

東京理科大学 経営学部助教・岩田聖徳氏より、株主提案を通じたガバナンスによる企業のESG拡充への影響について、企業の増配決定を例とした研究の報告がありました。東京経済大学 経営学部教授・金鉉玉氏からは、増配決定事例について株主提案のタイミングや世の中の動向など異なる観点でも企業の意思決定には影響があるとの意見があり、今後の研究への示唆となりました。

次に、本学経営管理研究科・篠沢義勝教授より、新しい経営手法を早期に導入する企業の特性と、そのパフォーマンスについて分析する研究の報告がありました。新しい経営手法については、特にCFOの登用や健康経営、パーパス経営といった取り組みに注目しました。これに対し、九州大学大学院 経済学部教授・内田交謹氏は、3つの経営手法には異なる背景があるものの、それを行う企業に共通の特性を探る研究として興味深いと評価しました。

最後に、青山学院大学 経済学部教授・白須洋子氏より、コーポレートガバナンスコードの導入黎明期において、日本の企業における女性取締役が、tokenism(名ばかり)の役職として設置されたのではないか検証する研究について、報告がありました。これに関して篠沢教授より、女性の取締役登用が名ばかりであることが、ジェンダーの多様性の経営に対する有効性にどう関係するかということに関心があるとのコメントがありました。

 

当カンファランスを通じて、各研究の仮説の立て方や調査方法の設計、類似の研究との違いなど、学際領域において研究者間で活発な意見交換が行われ、お互い大いに刺激となりました。相互に知見を持ち寄ることで新たな視点が生まれ、今後一層有意義な研究が深められていくことが予感される一日でした。

 

<総合コーディネーター> 一橋大学大学院 経営管理研究科 安田行宏教授

本カンファランスでは、通常では議論をする機会がほとんどない3領域の専門家の間で活発な意見交換が行われました。こうした学際的な研究領域の進展は今後ますます重要性を増すと思われます。今後も、前例のない新しい取り組みに対しても積極的に取り組んでいきたいと思います。

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