HUB-SBA MAGAZINE

小川英治先生の最終講義が行われました

2023年11月13日

img_blog20231109_01.jpg

10月28日、本学商学部および経営管理研究科において34年の長きに渡り教育・研究の発展に尽力された小川英治名誉教授による最終講義が行われました。小川先生は、2020年3月に本学を退職されましたが、当時はコロナ禍により最終講義が延期となりました。今回、小川英治ゼミナールOB・OG会と本学大学院経営管理研究科の主催でようやく開催が実現しました。講義は、本学インテリジェントホールにおける対面方式とオンラインの両方で行われ、対面には120名、オンラインでは海外からの参加も含め15名が出席しました。

最終講義

最終講義は「再考・国際通貨システムの安定性」と題し、小川先生の研究者としての出発点となった1998年に上梓された博士論文『国際通貨システムの安定性』を振り返るところから始まりました。この著書は、1999年のユーロ導入直前にまとめられたもので、ユーロの導入が国際通貨システムに与える影響を理論的かつ実証的に分析されています。小川先生は当時に思いを馳せて、「ドルのような基軸通貨がもう一つ現れるかもしれないことに大きな期待がありました」と語られました。最終講義では、その後の国際通貨市場の中で、ドルが引き続き基軸通貨としての役割を負っていることや、ドルと対等となることが期待されたユーロは、それには至らなかったことなどが解説されました。

img_blog20231109_02.jpg

また、博士論文で明らかにした国際通貨システムの研究を応用し、1997年のアジア通貨危機における金融市場の分析を踏まえ、アジア通貨単位(AMU)※1とAMU乖離指標※2を考案したことを紹介されました。これらの指標は、通貨協調に関する政策立案等において活用されています。

講義の後半では、これまで行われた数々の国際共同研究を紹介されるとともに、最新の著書『ポストコロナの世界経済-グローバルリスクの構造変化』について、要点を取り上げて解説されました。その中で、小川先生が国際通貨において重視されているのは、どの通貨で決済がおこなわれているかという点であるとし、その観点から、1971年のブレトンウッズ体制の崩壊以降も、ドルが引き続き基軸通貨の役割を保持していることを実証的に結論付けました。また、最近の研究として、何がグローバルリスクに影響を及ぼすのかという観点で、VIX指数※3、金融ストレス指数※4、グローバル経済政策不確実性(GEPU)※5に注目し、リーマンショックとコロナショック、さらに直近のウクライナ戦争および米国の金利上昇の局面を比較した研究について紹介されました。

そして、この講義の最後には「国際通貨システムは、常に何らかのショックに晒されており、近年はコロナショックのような想定されていなかった事象が生ずるなど、経済政策不確実性が増しています。加えて、国際政策協調(G20や地域協調)も行われなくなっています。そうした中で、通貨政策面における国際通貨協調は、一層重要性・必要性を増しています」と提唱され、長年、国際通貨を研究されてきた小川先生からの示唆に富むメッセージで締めくくられました。

感謝の言葉

img_blog20231109_03.jpg

最終講義のあと、小川先生が専任講師の頃からの教え子である佐々木百合氏(明治学院大学経済学部教授)より、感謝の言葉と花束の贈呈がありました。「小川先生は、大変広い視野で偏ることなく国際金融のトピックを網羅されてきました。それは、先生が国内外において多くの共同研究に取り組んでこられたことによるものと思います。研究者として小川先生を尊敬する点はいくつもあるのですが、特に仕事が早いという点、そして理論と実証のバランスの良い研究が挙げられます。先生はまったくお変わりなく若々しくいらっしゃるので、今日は一つの区切りとして、これからも益々研究を続けていかれることと思います。引き続きご指導をお願いいたします」との挨拶がありました。

最後は、会場およびオンラインの参加者からの大きな拍手が小川先生に贈られました。

※1 アジア通貨単位(AMU; Asian Monetary Unit)は、ASEAN10か国と日中韓(+香港ドル)の加重平均値(ウェイトは貿易額シェアと購買力平価で測ったGDPシェアの算術平均)。経済産業研究所(RIETI)の研究プロジェクト「為替レートと国際通貨」(2004年~現在)において、東アジア諸国通貨の為替相場をサーベイランスするための指標(EUを応用)を考案し、RIETIのウェブサイトにおいて毎日更新中

※2 AMU乖離指標は、ベンチマーク期間(2000-2001年)を基準として、各国通貨がAMUから乖離している程度を表す

※3 VIX指数(Volatility Index)とは、満期30日のS&P500のオプション取引より算出したインプライド・ボラティリティで、世界金融市場における短期リスクを表す

※4 金融ストレス指数(FSI; Financial Stress Index)とは、金融市場の不安感を表す指標で、株価のほか、金利、為替、債権などの金融商品の動向、先進国および新興国市場の両方を含めリスクを抽出して算出する

※5 グローバル経済政策不確実性(GEPU; Economic Policy Uncertainty)指数とは、主要各国について経済政策不確実性を表す単語を選び、新聞報道よりテキストマイニングによりEPUを作成。各国のGDPをウェイトとしてEPUの加重平均値を算出する

 

小川先生ご経歴

小川先生は、本学商学部をご卒業後、大学院商学研究科(現経営管理研究科)に進まれ、その後、講師、助教授を経て、1999年に教授に昇任されました。以降、学内では、評議員や役員補佐、国際共同研究センター長、商学研究科長・商学部長、理事副学長などを務められました。ご自身の研究においては、国際金融論を中心に幅広い領域で先駆的な研究成果を数多く修められました。とりわけ、国際通貨システムの安定性を為替相場制度や基軸通貨、国際資本フローなどの観点から理論的・実証的に研究され、この分野を牽引してこられました。さらに、学外においては、日本金融学会会長を始め、数々の組織団体においての役職を務められました。中でも外務省開発協力適正会議では2003年から2021年まで座長を務められ、この長年にわたる国際協力推進への功績を称えられ2022年に外務大臣表彰を受賞されています。

HUB-SBA MAGAZINE