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「戦略分析」・ゲスト講師・鳥居正男氏「グローバリゼーションとリーダーシップ」

2023年12月19日

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経営分析プログラムの秋冬学期に開講されている「戦略分析」(担当教員・藤原雅俊教授)では、経営戦略に関するケース分析と討議を通じて戦略的思考力を養うことを目的として、第一線で活躍されている実務家をゲスト講師に迎えています。11月27日、元ノバルティスファーマ株式会社会長・鳥居正男氏を招き、「グローバリゼーションとリーダーシップ」と題する講義を行いました。鳥居氏による講義の概要を以下の通り紹介します。

鳥居氏は、長年に渡り外資系製薬企業において経営者を務められ、その経験から特にグローバル人材や企業でのリーダーの在りかたについて、著書『いばる上司はいずれ終わる―世界に通じる「謙虚のリーダー学」入門』にまとめられています。今回の参加者は、事前に著書を読んで講義に臨み、当日は活発な質疑応答が行われました。
 


日本の強みを見直そう

近年、世界の中での日本のポジションは、人口減少や経済・教育の面だけではなく、「世界人材ランキング2023」やSDGs達成度ランクにおいても順位を落とすなど、低下傾向が顕著となっています。私は、そうした状況を憂えると同時に、日本の良さに今一度目を向けることが重要であると考えています。仕事の進め方を見てみると、日本と西欧の間には多くの文化的な違いがあり(図1参照)、「非効率」など日本の弱点として指摘されることが多くあります。しかし、例えば会議の前後のおしゃべりもチームワーク醸成には意味があり、また、業務範囲の曖昧さは他人の仕事をフォローすることにもつながります。数字に表れる効率性だけでは日本の良さは捉えられません。欧米の模倣をするのではなく、「日本の強みを見直す」ことが必要であると思います。

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図1

リーダーのコミュニケーション力

ビジネスのグローバリゼーションが進む中、世界で活躍できる「グローバル人材」とはどのような人材でしょうか?語学力はもちろん不可欠ですが、語学が得意なだけではグローバル人材にはなれません。グローバル環境でリーダーとして活躍するには、異なる文化やバックグラウンドを深く理解する必要があります。私は長年外資系企業で経営者を務め、多様な国の出身者を上司に持ち、本社とも多くの折衝を行ってきました。そこで学んだことはさまざまありますが、中でもコミュニケーション力は重要なポイントです。日本人は、正解主義で間違ったことを発言してしまうことを恐れるあまり、発言のタイミングを逃し、それ故に存在感を示せないという場面が多く見受けられます。上手く話そうとする必要はなく、伝えたいというパッションが大切なのです。また、日本人は言外の意味を読み取るというハイコンテクストな文化を有しており、さらに謙虚であろうとすると発信が控え目になりがちです。しかし、本来発信は戦略的に行うべきものです。いかに相手に強い印象を与えるか、そうした意味でのコミュニケーション力もリーダーには欠かせません。

私が大切にしていること

これまでの経験から学び、日頃から心掛けていることは、「感謝」「気配り」「謙虚」(3つのK)です。私は常々、上司は部下に感謝し、尽くすものであると思っています(図2参照)。部下が会社の成長を担っているのであり、彼らが仕事をやりやすい環境を作るのが上司の役割であると認識しています。部下を信頼し、任せる。ただ、それは「部下に甘い」ということではありません。仕事のスピードや中身には厳しくしますが、部下とのコミュニケーションには3つのKを大切にしてきました。部下にもいろいろな人がいます。優秀な部下には敢えて厳しく指導したり、ゆとりのない部下には丁寧に教えるといった気配りも重要です。リーダーに必要な資質はさまざまありますが、結局のところ、真のリーダーには「人間性」が問われるということです。

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図2

皆さんへのメッセージ

「Be curious」何ごとにも興味を持つこと。「貪欲に学べ」学べる時にチャンスを捉えて学ぶこと。「海外へ。異文化に触れる」異文化に身を置くことで見えてくることはたくさんあります。そして、ぜひ仕事を楽しんでください。昨今は、ワークライフバランスが重視されていますが、私は「仕事を通じて成長する」ということも大切にしたいと思っています。
 


参加者レポート:大坪秀泰さん(経営分析プログラム修士1年、企業派遣)

外資系企業で長年活躍された鳥居先生が感じたグローバル競争で生き抜くカギは、「日本人らしさ」だという結論に驚きました。MBAで学ぶ経営の「やり方」は西洋からの輸入品であることが多い一方、経営者としての「あり方」については日本の美徳を大切にすればいいという考えは新鮮でした。また、「上司の仕事は部下が働きやすい環境を作ること」という考えに強く共感しました。伝統的な日本企業の部下層は、上司のための内向きな仕事に時間を割かれることが多いという実感があります。しかしながら、市場に価値を提供するのは上司ではなく現場第一線にいる部下なのだから、上司は部下に仕えるべきだ、という主張はある意味合理的だと思います。

鳥居先生の話に共感する点が多くあった一方で、自分自身に課題意識も生まれました。それは、自身の所属する日本企業において組織文化を変革し、グローバル競争下でも戦える職場環境を作れるのかという点です。この点、鳥居先生から「社外との接点を持つこと。短くてもいいから海外に行くこと」というアドバイスをいただきました。私が派遣元企業に戻った後は、社外派遣や出向、人事交流など社外との接点を持つような施策を会社に提言しようと思います。一人でも多くの人材を社外の価値観に触れさせ、グローバル競争に勝ち抜ける組織へと成長させていきたいと考えています。

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鳥居氏(写真中央)、大坪さん(前列・鳥居氏左隣)、藤原教授(写真右端)

鳥居正男氏

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メリーランド州ロヨラカレッジ経営学科卒業。スイスの製薬企業ロシュの日本法人に入社。仕事を続けながら上智大学国際部経営学修士課程を修了するとともに、スイス本社や米国法人での勤務を経験。その後、グローバル製薬企業4社(ローヌ・プーランローラー(本社フランス)、シェリング・プラウ(本社アメリカ)、ベーリンガーインゲルハイム(本社ドイツ)、ノバルティス(本社スイス))の日本法人社長を歴任。また、ベーリンガーインゲルハイム社長時代に、エスエス製薬を買収し同社の社長を兼務した。現在、上智大学同窓会会長

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