HUB-SBA MAGAZINE

2023年度 経営分析プログラム基礎ワークショップの報告会が行われました

2024年01月30日

12月15日、修士1年生必修の演習科目「基礎ワークショップ」の報告会が、本学インテリジェントホールにて行われました。このワークショップは、春夏学期の導入ワークショップに続くもので、グループで一つのテーマについて研究を進めます。当日は、A・B・C各クラスの代表チームから、導入ワークショップでの研究を踏まえた、さらに磨かれた発表がありました。また、コメンテーターとして、修士2年の先輩方も参加して、各研究の課題点を的確にアドバイスされました。グループでの発表は今回で最後となり、今後は2年次ワークショップでの中間発表に向けて個人研究を進めます。さらに、この基礎ワークショップでの学びを生かしながら、研鑽を重ね、最終目標のワークショップレポートを目指します。


基礎ワークショップAクラス代表
研究課題: 社長の属性が企業パフォーマンスに与える影響―外部招聘社長と内部昇進社長の業績の違い

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一般的に日本では、人材の流動性が低く、新卒で入社した後は終身雇用が前提となっていることを問題意識としています。日本の伝統的な大企業では、自社事業に精通した生え抜き社員が、最終ポストとして社長に就任することが多いと考えます。一方で、「プロ経営者=外部招聘社長」といわれるような、複数の会社で経営職の経験がある人材に社長のポストを担わせる企業もあります。この研究では、内部昇進社長と外部招聘社長とでは、キャリアが異なるため経営手法に違いがあるという考えを基に、社長のキャリアの違いが企業パフォーマンスに与える影響に焦点を当てて研究をしました。これまで経営者の属性に注目した先行研究では、「内部昇進」と「外部招聘」という分類で実証研究を行ったものは少なく、この2軸によって企業パフォーマンスに違いがあるかを明らかにしていきます。

基礎ワークショップBクラス代表
研究課題: 同族企業形態がESGスコアに与える影響

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この研究は、日本における同族企業形態が、企業の環境・社会・企業統治への取り組み状況を示すESGスコアに、どのように関係しているのかを調査して、その特性を調べようとするものです。同族企業とESGスコアに関する先行研究は存在するが、この研究では日本企業のマスデータを使用している点と、同族企業を同族による「所有」と同族による「経営」とに分けて分析している点で新規性があります。本研究を通じて、同族企業が高ESGスコアを持つ傾向にあるということが立証できれば、「同族企業=マイナス」というイメージを覆すことができるでしょう。同族企業は長期的視点に立って社会からのレピュテーションを意識しており、レピュテーション向上を目的とした社会貢献活動にも積極的に取り組んでいるので、我々は、同族企業は非同族企業に比べてESGスコアが高いという仮説を立てました。研究の限界としては、同族企業とESGスコアの媒介となる調整変数の特定ができていないことや、独立変数およびコントロール変数の選択によって、結果が変わる可能性があることなどがあげられます。これらは、今後の研究課題です。

基礎ワークショップCクラス代表
研究課題:イノベーションの正当性におけるナラティブ分析~Appleを題材にして~

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この研究は、「イノベーションはどのように正当化されるのか?」について、企業によるナラティブの時系列変化の側面から分析し、そこから仮説を導出することを目的としています。イノベーションの正当性に関するナラティブ研究はこれまでにも多く存在しています。しかし、私たちのリサーチによれば、その時系列的な変化に着目した研究は十分でなく、そのため本研究を進めることで、「イノベーション」、「レジティマシー(正当性)」、「ナラティブ」という3つが交差する領域に貢献できると考えています。この研究では、YouTubeに上げられているAppleの新作発表について2010年から10年分をテキスト化し、ナラティブの変化を分析しました。手順としては、(1)サンプル抽出、(2)発言内容の文字起こし、(3)文字起こしした文章をエクセルにまとめる、(4)KH Coderで分析するため、エクセルで前処理をする、(5)KH Coderを用いて頻出語、共起ネットワーク分析を行う、(6)仮説を導出、という流れで進めました。その結果、例えば、調査期間の前半においては技術的な用語が頻出している一方、後半は「You」や「We」といった単語が多く使われていること等が分かり、そこから、時間が経過し普及が進むにつれ、技術アピールから企業と顧客との関係や顧客の体験へと、正当性獲得の重点が変化するといった仮説が導き出されました。今回の研究には複数の限界がありますが、データの種類や他の研究手法を使った場合には、より詳細な結果が得られることが推測され、研究の可能性が広がりました。

※ 計量テキスト分析またはテキストマイニングのためのフリーソフトウェア

担当教員コメント

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熊本方雄 先生
現代の社会的課題に基づいた興味深いテーマが設定されていて、また適切な先行研究の調査もなされていたかと思います。特にこの基礎ワークショップでは、方法論について中心に勉強してきたかと思います。そういった中で、データを用いた実証分析による仮説検証型の報告もあれば、ナラティブのテキスト分析を使った仮説導出型の研究もありました。それぞれ研究テーマと整合的な方法が採用されていて、導入ワークショップで勉強してきたことが、基礎ワークショップで十分に生かされていると感じました。発表まで2カ月ほどの準備期間で、時間的な制約もありましたが、ここまでのものを仕上げていましたので、この一年間の経験を、2年次のワークショップレポートの執筆に生かしていただければと思います。

角ヶ谷典幸 先生
報告の質はもちろんのこと、プレゼン力や質疑に対する応答力も素晴らしかったと思います。また報告の中では、はっとさせられることがありましたので、イノベーティブな内容が含まれていたと思います。コメンテーター(修士2年の先輩方)は、通常こういう場ではお世辞を言って終わってしまうのですが、各チームの報告に対して、手加減することなく真摯に意見をぶつけてくれました。批判的ながらも建設的なコメントばかりでした。一橋ビジネススクールの卒業生の強みは、既存の理論や先行研究をきちんとサーベイする能力を有していること、また社会科学のメソドロジーを習得していることにあると思っています。今回の報告には、導入ワークショップと基礎ワークショップで3冊の書物を輪読した成果が現れていたと思います。今回、報告の機会を得たのは各クラスの代表チームだけでしたが、代表チームの皆さんはクラスメイトの皆さんと切磋琢磨し、議論を重ねた結果、ここまで到達できたのだと思います。2年次のワークショップでの研究は青天井ですから、クラスメイトと競いながら、さらなる上を目指していただきたいと思います。ご研究の発展を願っています。

酒井健 先生
3チームとも素晴らしい発表だったと感じています。また、本日発表しなかった方から、グループ研究を進めていく中で「自分はこういう点に関心を持っているんだということに気付いた」という話を伺い、非常に嬉しかったです。他の皆さんも、今日の発表を聴いて「自分がどういうことに関心を持っているのか」を少しでも見つめていただけたでしょうか。もし何か気づきがあったならば、その問題関心をそのままにせず、それが経営学では何の話として議論されているのかを調べ、ぜひ先行研究にあたっていただきたいです。世界中に同じようなことを考えて、それを論文にしている人がたくさんいるかもしれません。そこで何が問われて、何が解かれてきたのかを、見定めていただきたいです。そこからさらに、自分が新たにどのような問いを投げかけてみたいかを考えてみてください。さらに、その問いはどういった方法で解けるのかを意識していただきながら、次のステップに進んでいただくと、この1年次の取り組みと2年次の取り組みの繋がりが見えてくるのではないかと思います。


★先輩からのアドバイス★

Aクラス代表チームへ
プレゼンテーションの構造がとても分かりやすかったです。仮説から「明らかになっていること」、「明らかになっていないこと」を組み立てて、抽出して、リサーチクエスチョンを立て、検証して、限界を示しているという構造が良かったと思っています。一点、付け加えるとすると「内部昇進社長」と「外部招聘社長」の、何が違うのかという掘り下げがもっとされると良かったと思います。外部からの社長を獲得することによって、どんな要素を得られているのか。例えば、業界以外の人脈だったり、ビジネスモデルの多様性や海外のM&Aでの知識だったり、内部の人材が持っていない何を獲得できるのかというのを掘り下げられると、変数のバリエーションも明らかになってくると思うので、益々良くなるのではないかと思います。

Bクラス代表チームへ
先行研究を丁寧にまとめられていて、そこから仮説を導出してモデルまで組み立てるという、セオリーに沿った発表をされているなと感心しました。少なくとも私たち修士2年生が、去年の12月の時点では、全くこんなにできていなかったので、他のチームも含めて自信を持つといいなと思います。研究内容については、同族企業と非同族企業のESG戦略にはどのような前提に立っているのかを先行研究から整理すると、議論のセットアップが上手くできると思います。また、ESGスコアの優劣に影響を与える要素は格付機関によってさまざまなので、それらも分析できれば、企業の経営者などがESGスコアを上げるために何をしたらいいのかという実務的なインプリケーションを導くことができ、企業の戦略にも有用な情報を与えられるかもしれません。ここから先の研究が面白くなってくるだろうなと感じたので、ぜひ続けてみてください。

Cクラス代表チームへ
イノベーションの普及は課題になっているので、正当性を獲得していく中でナラティブが果たす役割について着目したというのはすごく新規性があると思います。これからいろんな企業がイノベーションを普及させていく時に、どのように伝えていけば広がっていくのか、というところの示唆がすごく得られると思います。経営者の動画のメッセージを分析するというのも、とてもユニークな分析手法で修士2年のワークショップではやっているのを見たことがないです。本当にすごいなと思って感心しました。iPhoneを買ってもらって、その後は付帯するサービスで外部性を獲得して、顧客をロックインしていくというようなセオリーを踏まえると、Appleの新作発表会におけるナラティブの変化は、そうした戦略が背景にあるのだろうなと考えた時に、今回の研究報告はとても整合的でいい結果だと思いました。ですが、これを正当性という概念とどう結びつけるかと考えた時に、Appleの新作発表会の対象は誰に向けたもので、どんな正当性を確保しようとしていたのかをもう少しクリアにすると、正当性の研究として面白くなってくるのかなと思いました。

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