2024年09月18日
8月6日、7日に経営分析プログラムの学生が、静岡県にある株式会社木村鋳造所を訪問しました。本研修プロジェクトは、経営管理研究科が主催し、三枝匡経営者育成基金から一部支援をいただき実施しているものです。木村鋳造所は1927年の創業で、1966年からは製品形状の発砲スチロールの模型を製作し、鋳物に置換する、「フルモールド鋳造法」という鋳造技術を導入して、自動車用プレス金型鋳物の生産を開始しました。しかし、発泡スチロール模型は一度鋳造してしまうと消失してしまうため、大量生産には向いていないという弱点がありました。そこで、木村鋳造所ではこの問題をIT技術で解決し、同じ模型を早く大量に作るシステムを確立して、フルモールド鋳造法による大量生産を実現化しました。今ではこのフルモード鋳造法から派生し、さらに3Dプリンターを運用したものづくりやリバースエンジニアリングなどの新技術の利用へと多様な発展を続けています。
研修初日は、静岡県駿東郡にある本社と伊豆にある先端プロセス技術センターを見学し、2日目は御前崎製作所に伺い、フルモールド鋳造法の工程を実際に見ることができました。この二日間の研修には、代表取締役の木村寿利さんが同行してくださり、丁寧なご説明をいただきました。また見学時には現場のスタッフや各部門の担当者からも直接話を伺うこともでき、大変実りの多い研修で参加者からは次のような感想がありました。
景 玲さん
この研修を通じて、鋳造業に対する認識が改まりました。鋳造業は、長らく重労働で厳しい労働環境のイメージが強く、環境負荷の面でも課題が多いとされてきました。ですが今回、木村鋳造所を見学したことで、私の抱いていたこれらの固定観念が大きく覆されました。まず、鋳造業界における環境問題といえば、産業廃棄物の処理が長年にわたる課題であると思われていました。しかし、実際には鋳造業界では鉄系廃材の回収と層別を行い、それを製品に再生するというリサイクル構造が確立されており、リサイクル率は驚異の99%に達しています。さらに、木村鋳造所では生産活動から生じる廃棄物を削減し、適切に処理しています。
例えば、木村鋳造所が採用するフルモールド鋳造法では、発泡スチロール製の模型残材が大量に発生します。しかし、同社では加工時に発生する切粉をすべて吸引し、残材となった発泡スチロールは社内で処理し、ほぼ100%を有価物としてリサイクル業者に販売しています。こうした取り組みから、環境負荷の低減に真摯に取り組む姿勢が伺えました。
小畠 佑介さん
訪問を通じて、木村鋳造所が自社の取り組む事業を定めてきた過程を知り、大学や大学院で学んだ「事業戦略の事象」が実際の会社でどのようにおきるのかを知ることができました。木村鋳造所の企業としての軸足は現在の社長になって変化しています。先代の社長までは国内でのフルモールド鋳造法による鋳造に専念する方針を取っていたのに対し、現在の社長に変わる前後から3Dプリンターでの砂型製造やキムラデザインワークス、米国への進出など事業領域を拡大しています。はじめは社長が代わりトップの意見が変わったことで会社の方針も転換していると思いましたが、木村社長の話を伺い、実際にはその時々の情勢に合わせて最適な方針を打ち立てているのだと実感しました。
また、私はメーカーで人事を担当することから、日本の企業がいかにして雇用を確保するのかということに関心を持っています。本研修では、人事部門担当の方が質問にも丁寧に答えてくださいました。人材を確保することの難しさを知るとともに、マクロな視点で人材育成を考える機会を得ることができました。
深澤 千帆さん
2日間の行程では、木村社長に終日ご同行いただき、企業概要や工場についても直接説明をしていただきました。木村鋳造所は伝統的な企業でありながら新技術をたくさん取り入れたり、新しい事業に挑戦したりと"両利きの経営"を行っていますが、これはひとえに社長のセンスとパワーによるものなのだろうと想像していました。しかし、実際に話を伺ってみると、発泡スチロール模型の事業などは、現場の声を取り入れ始まったものが子会社の事業となっていること、その一方で、3D プリンター事業については社長が熱意をもって社内を説得し、導入することができたことを伺いました。このボトムアップとトップダウンの絶妙なバランスが、社内の明るくはつらつとした雰囲気を作っているのかも知れません。
私の所属する企業は、木村鋳造所と従業員数としてはほぼ同じであり、非上場企業・地域に根差した企業という点でも類似していますので、とても良い学びの機会になりました。
林 業翔さん
今回の見学で最も強く印象に残ったのは、木村鋳造所が単なる製造業を超え、人を大切にする「人本経営」を実践している点でした。従業員の働きやすさを重視し、技術革新にも積極的に取り組んでいる姿勢に感銘を受けました。製造現場はどこも清潔で、5S管理が徹底されていることで、会社のイメージアップに寄与しているだけでなく、社員の皆さんも快適に作業できる環境が整えられており、企業と社員が一体となってこの環境を築き上げている点が非常に印象的でした。
私自身、中国で仲間とともに小規模な板金系の町工場を経営していますが、残念ながら夏季の作業環境は厳しいものです。中国の中小製造企業は依然として低コストを武器に国際市場でのシェア拡大を図っていますが、その背後には労働者の過酷な労働環境が存在します。木村鋳造所のように、労働環境を整えることが長期的な競争力の維持に繋がるという考え方は、中国の製造業にとっても非常に参考になるべき事例です。