2024年11月05日
8月8日、本学千代田キャンパスにおいて行われた戦略的経営者研究会の第28回研究会では、ダイナミックマッププラットフォーム株式会社 代表取締役社長CEOの吉村修一氏を招き、「投資家から経営者へ ~日本発のグローバルスタートアップを目指して」というテーマで講演がありました。吉村氏は、本学商学研究科MBAコース(現在の経営管理研究科 経営分析プログラム)の修了者で、本記事では、今回の講演に加え、その後のインタビューで伺った一橋での学びについて紹介します。
戦略的経営者研究会 第28回研究会 ご講演
商社勤務から投資家へ
2005年に新卒で三井物産に入社して、そこでビジネスの基礎を学ばせていただきました。5年ほど経った時に、さらに自身の能力を磨くため当時の自己研鑽休暇を利用して、一橋大学のMBAコースにて2年間フルタイムで学び、これが転機となって、12年に株式会社産業革新機構に転職しました。
産業革新機構は、新たな付加価値を創出する革新性を有する事業に対して、成長資金を提供し経営参加型の支援を行う組織で、私の仕事は投資家として有望な事業を見出し、投資計画を立てることでした。例えば、ある化学メーカーが持っている技術で今後事業化の意思がない案件について、その化学メーカーから切り出して事業親和性のある別の会社と合併させた案件などがあります。
投資家の仕事というのは大体手順が決まっていて、投資仮説の構築から、デューデリジェンス、資金調達、契約クロージング、バリューアップ、売却というフローが順番に流れていきます。ただし、産業革新機構は経営参加型の支援なので、売却後もその経営に携わります。ここでは、経営陣と将来の成長に向けた経営議論を何度も行うのです。そうすると、自分の中でも新規事業への情熱が湧いてきて、支援している場合じゃない、自分でやってみたいと思うようになってきました。そこで、当時機構が手掛けている中で自分が一番やりたい仕事と思った今の会社に転職を決意しました。
投資家から経営者へ
最初は、取締役副社長として入社し、22年から代表取締役社長を務めています。投資家の頃は、一定の業務フローが決まっていましたが、経営者となると、さまざまな業務が次々と舞い込みます。そうした中で大切なのは会社のビジョンで、それを膨らませていくことが経営者の責務です。ビジョンを、戦略作りやガバナンス、そしてリスク対応においても実現し、それによって企業価値を上げていくことが経営者に求められています。
投資と経営は、取締役会や株主総会において意思決定されるという点では同じですが、実際の業務はまったく異なります。投資はシミュレーション、経営はリアルです。投資は個人、経営は組織で動くものです。投資は月次サイクルでフォローしますが、経営は30年先を見つつ、5年先、1年先、さらに3か月、月次、週次、30分サイクルで管理を行います。どちらが良いというものではありませんが、私の場合は両方の経験が現在の仕事に大変生きていると感じています。
ダイナミックマッププラットフォームは、5年前に米国企業を買収し、現在はグローバルに事業展開をしています。この会社の経営者として、将来は、日本発のグローバルスタートアップ企業として成長し、いつか世界の時価総額ランキング上位の企業になることを目指します。
講演後のインタビュー:一橋MBAを振り返って
一橋での学び
一橋のMBAコースには2010年に入学しました。この学び舎で得たことは、「深く考える」ということです。経営戦略の講義や「戦略分析ケースブック」の執筆でご指導頂いた沼上幹先生や、ゼミでご指導いただいた経営管理研究科の加賀谷哲之先生と円谷昭一先生をはじめ、多くの先生方から「深く考える」ことを教えていただきました。それまで商社で忙しくしていたので、仕事に追われて考えることをサボっていたという意識はなかったのですが、どうしても効率重視になってしまい、「深い思考」というものができていなかったことに気づかされました。例えば、A案・B案2つのものを比較する際に星取表を使い、評価項目ごとに「○・×」を付けて、○の数が多いものが良い、というような単純な判断をするべきでないということを教えられました。それぞれの要素がどう関係し時間の経過とともにどう変化していくか、もっと深く考える必要があるのに、簡単な尺度で安易に判断してしまってはいけないということです。今はまた多忙な中でつい楽な思考法に逃げがちですが、その欠点に気づけるというのは、一橋で学んだおかげです。
MBA取得が転機となり、転身
MBA修了後は職場に戻りましたが、2年の間に同僚はバリバリと仕事をし続けていたので、差がついたなと感じました。ですが、私自身これまで現場で眼前の課題に追われていた時と比べて、経営戦略、組織論、コーポレートファイナンスや管理会計まで、経営全般について知識の基礎体力が上がり、見えるものの深さが劇的に変わりました。そこで、思い切って転職を決意しました。一橋では、スキルよりも思考法を重視するので、その後の投資家や経営者という異なるキャリアにおいても、さらに会社が変わっても当時の学びを生かせていると感じています。
また、一橋で得られた仲間たちとの絆も私にとっては大きな財産です。社会人になってからは、なかなか素顔で付き合える友だちはそんなには作れません。しかもみんな優秀で、それぞれのフィールドで経験を重ねてきているので、時折会って議論をすると、さまざまな視点から答え合わせをしているようで楽しいですね。実は、当社の社長室長は一橋MBAの同期で、大変頼りにしています。
現在、MBA取得を検討している方たちには、ぜひ一歩を踏み出して、新しいことや希少性のあるキャリアにチャレンジしていただきたいですね。
ダイナミックマッププラットフォーム株式会社の事業について
クルマの自動運転や先進安全技術に向けて高精度の3次元地図データを提供する会社として2016年に設立。トヨタ・日産・ホンダや、地図データ会社、測量会社、金融など25社が出資している。3次元地図データは、道路の車線や信号情報、立体交差の高さといった静的な情報を持ち、渋滞や工事などその時の状況により変化する動的な情報を取り込んだ「ダイナミックマップ」の基盤となって、クルマの安全性や快適性に貢献する。また、道路インフラの補修箇所や渋滞しやすい箇所、あるいはEV充電器の必要箇所を特定できるため、都市開発などクルマ以外にもさまざまなコラボレーションが可能。米国の地図会社を買収したことで、現在、日米欧において高精度3次元マップでは世界トップのデータ量を保有している。