2024年11月19日
去る8月20日~25日、経営分析プログラムの学生を対象とした海外研修が行われ、学生10名と教職員3名がカンボジアを訪問しました。本研修プロジェクトは、経営管理研究科が主催し、三枝匡経営者育成基金から一部支援をいただき実施しているものです。本研修では、ASEAN諸国の一角として成長が期待されるカンボジアを訪れることによって、経済発展の実際を体感するとともに、日系企業および現地企業における交流を通じてグローバルな事業展開・人材育成の要諦に関する理解を深め、将来グローバルに活躍する経営人材となるための能力を涵養することを目的としています。現地訪問に先立つ事前学習としては、訪問企業の調査や質問事項を準備し、訪問先の一つでもある特定非営利活動法人ジャパンハートによる途上国での医療活動については課題図書で理解を深めました。
カンボジアのプノンペン空港では、本学商学部OBでファルス株式会社(以下、ファルス)代表取締役の髙橋伸彰さんが出迎えてくださいました。初日の懇談会では、現地の目線から見たカンボジアのビジネス環境や社会的課題について話を伺うことができました。なお髙橋さんは、春学期に商学部で開講していた「特別講義(スタートアップの資本政策)」にもゲスト講師として登壇いただき、学部生に向け熱いメッセージを下さった方です。
2日目の午前中には、ファルスの出資により設立された、新興企業のJCファイナンスを訪問しました。JCファイナンス(以下、JCF)は、カンボジア農業の振興を目的として、主に農業を営んでいる人達に対して農機具購入の資金を融資するマイクロファイナンス事業を展開しています。JCFのターゲット層は農村部の個人事業主であり、それゆえ財務諸表も存在しません。そのため、貸し手としてはそれを補完するための工夫が必要になります。その工夫として、JCFではプロジェクトファイナンスの考え方を用いて、債務者が保有する農地から得ることができる農作物の利益を原資としようとしています。また、カンボジアならではの取り組みとして、貸し出しをする際に債務者の人となりを調査するために、村長にヒアリングをするという話も伺いました。農村部はやはりムラ社会であり、同じ村の人々からの評価をヒアリングすれば債務者の大よその信用力は把握できるということです。第三者の意見を参考にするJCFのこうした取り組みは、非常に合理的であると感じられました。
午後からは、300ヘクタールの土地に先進的な酪農技術を活用している乳製品メーカー、キリス・ファーム(KIRISU FARM)を訪問し、創業メンバーの一人である永田哲司さんより話を伺いました。キリス・ファームでは、飼料の生産から乳牛の飼育、搾乳、そして製品の加工・販売に至るまでをすべて自社で一貫して行う、独自のビジネスモデルを展開しています。特に注目すべき点は、先端的なテクノロジーを駆使して低コストを実現し、かつ安全な製品を製造しているところです。牛舎の空調の自動化や体調に合わせてプロテイン入りの餌を与え、搾乳前にリフレッシュや熱中症対策としてシャワーを浴びさせていました。また、ICチップを用いた健康管理が行われており、食事や搾乳量、睡眠時間などをリアルタイムで把握しています。少しでも健康状態に問題のある牛が発見されると、医療スタッフ駐在のエリアに繋がる扉が自動で開き、牛はそこで詳細に診察・治療をされるため低品質の牛乳が製品に混在するリスクが軽減されるということです。カンボジアの首都であるプノンペンまで1時間程度の距離ということで、店舗には新鮮な状態で商品を届けていますし、店頭で売れ残った商品に関しても買い取る保証をしています。製品の価値を高めるこのようなこだわりの企業努力には大変驚きました。
3日目には、プノンペンから北へ車で1時間ほどのウドンという街にある「ジャパンハートこども医療センター」を訪れました。日本発祥の国際医療NGOとして、「医療の届かないところに医療を届ける」をミッションに掲げているジャパンハートは、医師・吉岡秀人氏を中心に、日本と途上国で命を救う活動をしています。カンボジアでは、ジャパンハートの医療活動の拠点となる病院「ジャパンハートこども医療センター」を2016年より運営し、小児一般診療・小児がん治療のほか、成人の内科・外科および産科の診療を行っています。当初はカンボジア政府や現地で活動をしているNPOと強いつながりがあったわけではなく、ジャパンハートだけでは限界があることに関しては、国内外の機関と交渉して協力を仰いだそうです。医療インフラが整備されていないカンボジアにおいて、治療の実績を積み、地道な取り組みで信頼を得て、活動の幅を広げていったといいます。
カンボジアでは、かつてポル・ポト政権時代の政策によって医師不足に陥り、医療が一度崩壊しました。その後、医師を急速に増やすために医学部に1年だけ通って医者になるというケースも起こりましたが、現在では医学部も8年制のシステムが確立され、卒前教育は整備されています。こうした中で、ジャパンハート副理事長で「ジャパンハートこども医療センター」院長の神白麻衣子さん(感染症内科医)は、ジャパンハートとしては卒後教育を整備することによって医療レベルを引き上げる必要性を感じており、院内でカンボジア人の上級医が後輩へ指導を行うシステムを取り入れようとしていると教えてくれました。この屋根瓦式システムは、日本の病院でも一般的なシステムではなく、ジャパンハート独自で取り組もうとしている方式です。さらに、ジャパンハートでは奨学金制度を設け、カンボジアの医療従事者育成事業も展開しています。日本の多くの医学部・医療センターと提携して日本の専門医を招き、現地で手術をする活動もあります。現地での人材マネジメントについて、日本人は指導の役割に回り、カンボジア人医師、看護師が診療を担当する体制を目指しているということでした。日本とは異なる価値観を持つカンボジアにおいては、日本のやり方をただ一方的に押し付けるのではなく、日本人スタッフとの共同生活の中で学んでもらうのが重要であると話されていました。
本研修ではさらに、イオンモール・プノンペンやセントラルマーケットなど現地の商業施設の視察も行いました。カンボジアでは、商業施設をはじめ、市場や街の商店、トゥクトゥクの車両にも決済用のQRコードが取り付けられ、QRコードによる決済の普及率が高いということを知りました。カンボジアには多くの開発課題があるにも関わらず、このような先進的な技術がデジタル決済や牧畜の世界で思っていた以上に進んでいることを実感しました。同時に、日本の新興企業やNGOがカンボジアの発展に積極的な役割を果たし、現地で重要な支援を行なっていることも知りました。また、アンコールワット遺跡群のあるシェムリアップでは、経営分析プログラム修了者でカンボジアメコン大学の講師をされている大矢千穂子さんとお会いし、グローバルに活躍する人材の素養として、その土地の歴史を熟知することも重要であると感じました。大矢さんとのディスカッションを通じて、カンボジアの文化と歴史、ビジネスについて深く知る貴重な機会となりました。
今回の海外研修プロジェクトでもまた、現地に赴くからこそ実現できる人々との交流を通じ、グローバルに活躍する経営人材へと成長する上で大切な学びと体験を得ることができました。
訪問先:
JCファイナンス / KIRISU FARM / ジャパンハートこども医療センター / イオンモール・プノンペン / Sorya Center Point / セントラルマーケット / シェムリアップ
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