HUB-SBA MAGAZINE

2024年度 経営分析プログラム基礎ワークショップの報告会が行われました

2025年02月10日

12月20日、修士1年生必修の演習科目「基礎ワークショップ」の報告会が、本学インテリジェントホールにて行われました。このワークショップは、春夏学期の導入ワークショップに続くもので、グループで一つのテーマについて研究を進めます。当日は、A・B・C各クラスの代表チームから、導入ワークショップでの研究を踏まえた、さらに磨かれた発表がありました。また、コメンテーターとして、修士2年の先輩方も参加して、各研究の課題点を的確にアドバイスされました。グループでの発表は今回で最後となり、今後は2年次ワークショップでの中間発表に向けて個人研究を進めます。さらに、この基礎ワークショップでの学びを生かしながら、研鑽を重ね、最終目標のワークショップレポートの完成を目指します。


基礎ワークショップAクラス代表
研究課題:劇場版名探偵コナンはどのように大人層を取り込んだのか
―少子化社会における「子ども向け」というステレオタイプからの脱却―

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少子化という社会課題を問題意識として持ち、子どもをターゲットとしたビジネスはどのような活路を見出すことができるだろうかということについて、映画『劇場版名探偵コナン』をケースとして用い、その消費者行動と制作側の戦略に注目しました。興行収入の推移を経年で見ると他のアニメーションと比べて、近年飛びぬけて増加しています。公表されたアンケート集計結果によると、特に2018年公開の映画を見た世代の内訳は、18歳未満の児童より20代と30代が全体の半数を占めていて、約7割が大人の消費者となっています。こうしたことから「コナンの映画はどのように大人層を取り込んだのか?」というリサーチクエスチョンを立てました。想定するメカニズムとして、制作サイドの大人層を取り込むための戦略により、子ども向けアニメのステレオタイプから脱却することで、大人層の消費者が増加し従来の子ども層と合わせて消費者拡大、興行収入増加につながったのではないかと考えました。先行研究では、ステレオタイプの脱却によるマーケティング戦略の研究は多数存在していますが、年代別のステレオタイプ脱却に着目した研究は進んでいません。また、ステレオタイプからの脱却により市場を拡大する戦略の理論化の試みもあるため、私たちはそうした理論を検証・修正し、「子ども向け」というステレオタイプから脱却するための有効な戦略の示唆を得ることとしました。 研究方法は、制作側の意図を探るためにインタビュー記事の分析を行い、消費側の受け止めについては映画レビューのテキスト分析と、219人に対するアンケート調査を行いました。これらに基づき、この映画は、カテゴリー分離は行われていないが、カテゴリー模倣と部分的にカテゴリー昇華により、「子ども向け」というステレオタイプから脱却したことを示しました。

基礎ワークショップBクラス代表
研究課題:日本企業における指名委員会の開催と資本コストの関連性について
―指名委員会の活動回数がもたらす影響―

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この研究の中心として、2021年に行ったコーポレート・ガバナンス・コード改訂項目のうち、「取締役会の機能発揮」に着目しています。意思決定機能を重視した「マネジメント・モデル」から監督機能を重視した「モニタリング・モデル」への実践を促すため、改訂ポイントの一つとして「指名委員会・報酬委員会の設置」を求めるようになったことがあげられます。その結果、過去10年間において指名委員会を設置する会社が顕著に増えてきています。さらに23年1月の内閣府令の改正により、指名委員会設置企業に対して指名委員会の活動内容・開催回数の開示が義務化され、企業ごとの開催回数に大きな差があることが確認されています。研究ではこの点に注目し、取締役会における指名委員会の活動量(≒開催回数)が投資家の企業評価に影響を及ぼしている可能性があるという仮説を設定し、その検証を行いました。具体的には、指名委員会の開催回数の多寡が株主資本コストに影響を与えているという仮説を設定しています。検証では必ずしも有意な結果を導き出すことができませんでした。サンプル数が限定されていることなどが検証結果に影響を与えている可能性もあることから、データ蓄積が進むのを待ちつつ、投資家に対して、指名委員会の情報開示に関するアンケート調査も行うことで、より理解を深めていく予定です。

基礎ワークショップCクラス代表
研究課題:ロゴの言語がブランドパーソナリティーと購買意欲に与える効果
―広告を用いた実験と分析の比較―

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この研究では、普段見慣れている商品や企業のロゴが変わると消費者が違和感を持つことに着目しました。リサーチクエスチョンは、「ブランドロゴの言語の違いによって、顧客にどのような反応差が見られるのか」としました。先行研究では、ロゴにおいて言語が重要な要素であり、日本人は日本語と英語のロゴに対して良いイメージを持っていると報告されています。とりわけ、日本語に対する親しみや好感の印象を通じて、「ブランドロゴ」や「言語」がブランドイメージに影響を与えていることが分かっています。

研究を進めるにあたり2つの仮説を設定しました。仮説1として、日本語を用いたロゴはブランドパーソナリティーの誠実という要素を向上させ、英語を用いたロゴは興奮や洗練を向上させるのではないか。仮説2として、ロゴの言語の変更は、ブランドパーソナリティーの5要素に影響することを通じて、購買意欲を上昇させるのではないかと考えました。検証方法には質問紙実験を選びました。先行研究を参考にして、日本語・英語で作成した仮想ブランドのロゴをアンケートの協力者に示して、ブランドに対する印象を7段階スケールで評価してもらい148件のサンプルを取りました。ロゴにおける言語は消費者の記憶やブランドの認識において重要な要素ですが、日本企業のロゴの言語についての先行研究はなされてはいません。今後は、日本企業が英語と日本語のどちらの言語を用いれば消費者のイメージ・購買意欲の向上につながるかの研究を進めていきます。

 
担当教員コメント

加賀谷哲之 先生
3チームとも素晴らしい発表だったと思います。MBAの基礎ワークショップで当初期待しておりましたのは、研究者がやる研究というよりは、企業経営や市場で起こった身近なテーマをきちんとアカデミックなアプローチで分析を行い、説得力のあるエビデンスを導き出していただくことでしたが、各チームもそうしたものが満たされていて素晴らしかったと思います。最終的な結果も含めて、大変分かりやすい説明もいただいて、そこも導入ワークショップからずいぶん進化されたところかなと思います。ただやはり研究ということになりますと、ロジックや検証アプローチではなお課題も残されていると思います。3カ月でここまでやったということは皆さんを褒めたたえたいと思う一方で、来年1年間をかけての研究はむしろ時間があるので、その時にどれくらい皆さんがさらに研究として素晴らしいものを仕上げるのかというのをぜひ期待しているというメッセージをお贈りしたいと思います。

高田直樹 先生
私からは、ぜひ皆さんに春休みの期間を使って考えていただきたいことをお話します。皆さんの発表を興味深く拝聴し、各チームとも素晴らしい研究をされていらっしゃると感じた反面、所々で「本当にそうなのか」とか、「そもそも理屈が成立していないのでは」と思われる部分もあったかと思います。3カ月という非常に短い期間で研究に取り組む以上、走りながら考えることで粗が出てしまうのは致し方ないでしょう。ですので、基礎ワークショップでの取り組みに関して同輩や先輩からコメントをもらったり、グループのメンバーと振り返ったりすることを通じて、じっくり考える機会を作って欲しいと思います。ぜひ、2年次のワークショップでも、切磋琢磨しながら素晴らしい成果を手にしていただきたいと思います。

熊本方雄 先生
大変興味深く拝見しました。基本設定にある方法に独自性があって良かったです。おそらくそういったテーマに追いつくためには日ごろからアンテナを張っていなければいけないと思うのですが、そういった意味で日々関心を持って過ごされているんだなというのを感じました。あと、基礎ワークショップにおいては、特に分析方法を身につけるというのが主要なテーマになったわけですが、そういったテキスト分析、アンケート調査があり、データ分析があり、また実験があり、基礎ワークショップで行われたことをしっかりなされているなと拝見しました。この基礎ワークショップで身につけた知見を来年のワークショップの執筆に生かしていただければと思います。

 
★先輩からのアドバイス★

Aクラス代表チームの先行研究で用いられていたステレオタイプの理論については、ワインや高級ブランドとかそういったものに使われているので、今回のアニメ映画でなぜ用いたということの質問をさせていただきました。映画のレビューについてはテキスト分析を使っていますが、制作側の意図についても同じテキスト分析を使ったほうが良かったと思いました。Bクラス代表チームの研究では「指名委員会の回数が資本コストに与える影響」とありましたが、反対に資本コストの低さが各指名委員会の回数に与える影響という見方もあると思います。例えば企業が安定している場合は、資本コストの低さと指名委員会の質を向上させるとか、そうした取り組みをさせる可能性があるのかなと思いました。Cクラス代表チームの日本語、または英語を使用したブランドロゴにおいては、「伝統的な日本」を好むような消費者もいれば、「モダンでグローバル」みたいなものを好む消費者も存在すると思うので、その人が持つ価値観や文化的なアイデンティティなどについては、統制できていないのかなと思いました。今後は、そうした消費者の細かい志向もアンケートで取っていくと面白い結果が出るのではないかと思います。

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