HUB-SBA MAGAZINE

第21回マーキュリー会(MBA同窓会)が開催されました

2025年04月08日

2月8日、「第21回マーキュリー会講演会および懇親会」が千代田キャンパスの隣にある如水会館において開催されました。マーキュリー会は、一橋ビジネススクールの経営分析プログラム(国立キャンパス:昼間コース)および経営管理プログラム(千代田キャンパス:夜間コース)の同窓会組織で、例年2月に総会および同窓会を開催して、在学生および修了者との親睦を深めています。 21回目となる今回は、約70名の参加者が集いました。

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会の冒頭は、森井孝則さん(HUB6期)の司会のもと、伊東宏会長(HMBA16期)より2023年度総会議事報告がありました。その後、秦充洋氏(経営管理研究科 客員教授)が、「『最初の一歩』を踏み出すための事業開発のコツ ~コンサル×起業家×教員の経験から」と題して講演し、出席したMBA修了者たちへの熱いメッセージが送られました。

続く懇親会では、森下真行さん(HUB7期)の司会進行のもと、福川裕徳経営管理研究科長の乾杯の挨拶で始まり、同窓生や恩師との和気あいあいとした交流が行われました。その他、在学生を代表して、経営分析プログラム・井口涼花さん(HUB7期)と、経営管理プログラム・小澤脩斗さん(HUB7期)および同・桐山智光さん(HUB7期)から活動報告がありました。
 

基調講演 秦 充洋氏(経営管理研究科 客員教授、株式会社BDスプリントパートナーズ 代表取締役CEO)
「『最初の一歩』を踏み出すための事業開発のコツ ~コンサル×起業家×教員の経験から」

私は、これまでにコンサルティング会社で事業開発に携わったほか、自分自身でも起業した経験があります。さらに現在は一橋ビジネススクールで事業開発について教えています。本日は、そうした経験から「事業開発のコツ」についてお話します。

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お話される秦充洋客員教授

新しいことを始める時には一般に先が見通せないので、「本当にこの道で良いのか」と悩むことでしょう。そうしたときに大切になるのが「論理的確信」です。

私が大学を出てすぐコンサルティング会社にいた頃、ある外資系の保険会社が日本市場の開拓で伸び悩んでいて何とかして欲しいという案件がありました。頑張って営業しているが、日本企業での保険商品の取り扱いは日本的な慣行で系列や株式持ち合いをベースとした法人営業が主流なので、自分たちは入り込めない、会ってもくれないというのです。

しかし、国内の上場会社の株主構成を見てみても系列や持ち合いに入っていない会社もあります。そこで私たちは、会社四季報で数百社の株主リストを調べ、系列や持ち合いに入っていない会社をリストアップして顧客に渡し、これらの上から順にアタックしてみてくださいと言いました。

先方は疑心暗鬼のまま、まずは10件電話をしてみたところ、何とそのうち8社にアポイントが取れ、うち3社から受注を獲得するという結果となったのです。このように「一般的には言われているけど本当にそうなのか」、事実をしっかり確認すること、それに基づいて実際に行動してみることが重要です。更には皆さんがMBAで学んでいる経営戦略や競争戦略、マーケティング、組織論、ファイナンスなどは、このような「論理的確信」を得るために、必ず生きてくるはずです。

次にご紹介したいのは私が「ケアネット」という会社を創業したときの話です。この会社の事業は、衛星チャンネルの「スカパー!」で世界初の医師向け専門放送を行うことから始まりました。最初は本当にそのようなニーズがあるのか不安だったので、200人ほどの医師にヒアリングをしたところ、実際に「新薬について知りたい」、「今さら聞けないことを情報提供してほしい」といった声があることが判りました。しかし医師たちからは、「お金は払いたくない」という反応がほとんどでした。衛星放送ですから視聴者から視聴料をいただくのが通常の方法なのですが、そこは衛星放送会社と調整して製薬会社から料金をいただくビジネスモデルで事業を立ち上げることにしました。同社はその後ネット配信に切り替えて東証プライム市場への上場を果たしています。

本当にその事業を始めてよいのか考えるときには、何を見ればよいのでしょうか。新しい技術やサービスの普及は、S字カーブで進むという理論は皆さんもご存知と思います。最初は低調で、徐々に利用が広がっていき、ある時から加速度的に普及、最終的には安定期に至るというものです。このS字カーブのように成長の軌跡を描けるか否かを考える際に見るべきポイントは、アーリーアダプターが見つかるかどうかです。そうしたアーリーアダプターと実際に話をして顧客理解を深めることで、事業化判断や展開のヒントが得られます。先ほどのケアネットのケースがその例です。ヒアリングのなかで「それは視聴してみたいね」と言う医師がいたら更にヒアリングを重ねていくのです。この活動は相当足で稼ぐ努力が必要です。まずは数件から始めて最初のアイデアをブラッシュアップし、更には何十件という数のヒアリングに掛ける必要があります。そこで一人も興味を示さないようなら、残念ながらそのアイデアは見直すべきという判断ができます。

新しく事業を始めるためには、いくつものハードルがあります。まず最初の段階としてアイデア提案、次に事業としてのモデル化、さらに社内外を巻き込んだ協力体制の構築というステップがあります。その際にハードルを乗り越えていくためには、マーケティング、競争戦略、会計、組織論など経営のさまざまな知識が必要です。

皆さんがMBAで学ぶこうした理論や考え方は、ビジネスの現場で必ず役に立ちます。経営の実際の意思決定においてそれらを「使う」こと、そしてさらに大事なこととして、新しい事業に「一歩を踏み出す勇気」を持っていただきたいと思います。事業開発や新しい取り組みは一人ではできません。MBAで得た仲間が大きな支えになるはずです。私も皆さんを応援していきます。

※ 新しい技術や製品が市場に投入された初期段階で積極的に採用する消費者層。1962年にアメリカ・スタンフォード大学の社会学者 エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)によって提唱されたイノベーター理論における5つのグループの1つ。

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