HUB-SBA MAGAZINE

看護師から大学院へ―大志を持ってMBA取得を目指す

2025年05月26日

大森 賢人さん

2025年3月修了
大森 賢人さん

看護師 × MBA × 医療経済プログラム

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学位記授与式

私は総合大学の看護学科を卒業後、2年間看護師として病院で働いていました。実は両親も在宅医療に関わる会社を経営しており、私自身も医療現場に携わりながら、経営にも関心を持っておりました。看護師としての仕事にやりがいを感じていましたが、次第に「経営人材として医療に携わりたい」という思いが強くなり、MBAへの進学を目指すことを決意しました。MBAを志した動機は、自分のキャリアには経営に関する基礎が欠けていると感じたからです。まずは経営に関する基礎を固めた上で実践の場に活かしていきたいと考えていました。数ある進学先の中で一橋ビジネススクールを選んだ理由は、学費面や国際認証を取得していて教育の質が保たれているという点に魅力を感じたからです。また、本学と東京科学大学で連携した「医療経済プログラム(専門職業人養成プログラム)」が設置されていたことも大きな理由の一つです。このプログラムは一橋大学大学院の修士課程および専門職学位課程に在籍する学生を対象とし、社会的要請に応え得る人材を育成することを目的に設計されています。特徴としては、医療にかかる社会科学の学問的知識を有し、幅広い観点で持続的な社会を展望できる、専門性の高い人材を育成するプログラムになっています。プログラムを通じて出会った他大学の学生との交流はとても刺激的なものでした。例えば、東京科学大学からは医師や薬剤師、製薬企業の方など医療分野において多様なバックボーンを持つ方が多くいらっしゃいましたし、グループワークでも活発なディスカッションを行うことができました。そんな刺激的なカリキュラムの中で「医療工学概論」はとても特徴的な講義だったと記憶しています。例えば「現代のロボット技術では人間の手の繊細な動きを再現できない、ではそこをどう簡便化して、手術用ロボットを作っているか」という講義があったりします。医療ロボットやゲノムのことなどかなり専門的なお話が伺えて新たな気づきがありました。私が学部の時に受講していた看護課程の授業では絶対に取り扱わないテーマだったりするので面白いなと思って履修していました。

本コースの経営分析プログラムではどの講義も興味深かったのですが、1年次に受講した円谷昭一先生(経営管理研究科教授)の財務会計が特に印象に残っています。看護師として勤務している時には触れることのない領域だったため、「財務会計」の講義がMBAを学ぶ上での経営学、会計学、マーケティング、ファイナンスの大きな入口にもなりました。また、「株主として、企業に株主提案する」というような課題もありました。私が在籍していた医療法人は、非営利法人で株主という概念が存在しません。そのため、全く異なる視点に触れられたのは新鮮で、視野が広がる経験でした。今後は自分の引き出しの中に入っているMBAで学んだ知識や講義のメモ、在学中に考えたことなどを仕事に生かしていくことで、学びの理解度に磨きがかかっていくのではないかと思います。

研究テーマは、看護師のウェルビーイングと組織コミットメント

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ジャパンハート訪問(カンボジア海外研修)

在学時は、「看護師が組織に所属したいと思うことが、看護師の幸福度へどうつながるか」というテーマで研究を行いました。一般的に大企業であれば、給与が高いからというポジティブな要因が組織への所属動機になることもあります。しかし、看護師の場合は保険診療にて報酬の算定をしている医療機関に属している場合、報酬が国の定める診療報酬に準ずるため病院ごとの差は限定的である場合が多いです。そのため看護師がその組織に留まりたいと感じる理由が必ずしも前向きなものではない可能性があり、仕事や組織に縛られているなどネガティブな要因によって成り立っている可能性が高いと考えました。つまり看護師が組織に留まりたいと考えることで看護師の幸福度が下がってしまうという仮説を立てました。検証の結果、この仮説を部分的に裏付けるようなデータを得ることができました。この研究を通じて、最終的には「看護師にとって働きやすいとはどういうことなのか」という観点へ貢献できたら良いなと考えています。

私は幼い頃から、両親が「現場の看護師に報酬を還元してあげたいけど、国の保険制度の仕組みなどで上手く給与を上げられない」と話しているのを聞いて育ちました。その影響もあり、医療従事者がもっと働きやすい環境はどうしたら作れるのだろう、ということについて課題意識を持っていました。両親や私の身近にいた看護師は常に患者を第一に考えている人たちで、自分が病気になったらこういう人たちに看護してほしいなと思う人たちばかりでした。私は彼らが意欲的に仕事を続けていける、高い質で医療を提供し続けていけるという環境づくりに貢献したいと考えています。入学当時は自分自身を将来の経営者、経営人材という位置づけで考えていました。ですが、学びを深める中で、「看護師の働き方を整える」という目標も見えてきました。将来的にはその目標を達成するために起業という可能性もあるかも知れません。ですが、今春からはコンサルティングファームで働いています。私のバックグラウンドも会社には伝えており、数年後には医療セクターの案件に携わり、コンサルタントとして医療業界に貢献できる立場を目指したいと考えています。

受験生の皆さんへ

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一橋祭に仲間と共に参加

私は医療従事者からMBAに進んだことで、「珍しいですね」「すごいですね」とよく声をかけられました。自分では特別なことをしたつもりはありませんが、キャリアだけ見ると大きな志を持って、何かすごいことをやろうとしているように見えるようです。ただ、これは誰にでも挑戦できることだと思っています。特に看護師や、作業療法士、理学療法士などのコメディカルの方も将来の目標を定めることができているのであれば、この一橋ビジネススクールに入って2年間学ぶことは今後のキャリアを作る助けになると思います。MBAでの2年間の学びを土台として、目標に向かって挑戦できると思います。前例が少ないからこそ、医療職の方々でMBAへの進学に興味を持っている方がいらっしゃったら、ぜひ勇気を持って一歩を踏み出してほしい。そう思います。

(2025年5月)

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