2025年07月29日
2024年度入学
近藤 文佳さん
私は財務省からの企業派遣ですが、派遣元では理財局という部署で財政投融資の業務に従事していました。公務員は数年で部署異動があり、理財局の中でも係によって業務内容が変わります。地方公共団体向けの融資や、独立行政法人や特殊会社への出資や融資を経験してきました。当然ながら異動の度に新しい部署で新しい業務についての知識を身につけなければならず、一つのことに長期間じっくり向き合って勉強するということが難しい状況でしたが、融資先の事業内容は一つ一つが興味深く、どうやって事業計画を一から立てていくのか関心を持っていました。そんな中で、企業派遣による国内留学の話があり、挑戦したのがMBAでした。一般的な公務員業務の場合、製品やサービスを提供してその対価として利益を生み出すという仕事ではないですが、業務の中で相手から聞く話をもっと深く理解したい、広い視野で物事をみられる力を身につけたいというのが挑戦の動機でした。1年間MBAで学んでみて感じたのは、経営学の領域が思った以上に広いということです。入学前は、経営というと何を売って、どれだけ利益を得るかという個々の事業計画のイメージが強かったのですが、組織運営や人のマネジメントには社会学や心理学の要素が絡んでいたり、マーケティングなどでは統計的な知識も必要になったりと、社会のさまざまな要素が絡んでくるということを改めて認識するとともに、面白さを実感しています。
私がもともと関心を持っていたのが、上下水道事業への "コンセッション方式"の導入です。コンセッションとは利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式です。2017年ごろに水道・下水道事業へのコンセッション方式の導入促進が政策として進められていて、業務でも少し関係したことがありました。その後、異動もあってしばらく状況を把握していなかったのですが、久しぶりに気になって調べてみると、最初の目標から少しトーンが変わっていたんです。こうした経験から、政策の意思決定とその後の過程というものに興味を持ちました。本件に限らず、政策の意思決定にはいろいろな環境やステークホルダーの思惑、多様なアクターの行動が背後にあると思います。一つの物事の過程を丁寧に追うことで、本質が何なのか、何が意思決定において重要なきっかけになったのかを考えて研究を進め、それが今後の仕事にも役立つ知見につながればと考えています。
修士2年では、坪山雄樹先生(経営管理研究科准教授)の経営ワークショップに所属しています。先生の執筆された論文を読み、組織の意思決定の背後にある複数の思惑をインタビュー調査を通じて丁寧に分析する内容がとても面白く、ぜひ師事したいと思いました。坪山先生はいつも的確で鋭いアドバイスをくださる一方で、思いがけないタイミングで冗談を言って場を和ませてくださるので、リラックスして研究に取り組めています。
MBAで印象に残っている講義は、青島矢一先生(経営管理研究科教授)の『経営組織』や、田村俊夫先生(経営管理研究科教授)が担当をされている『みずほ証券寄附講義「M&Aの理論と実務」』です。青島先生の講義では、最後のグループワーク課題で、組織改革の取組みをしている実際の企業を探して調査し、その取組みの成功要因を分析し発表するというものがありました。グループメンバーとともに、対象企業(三和建設株式会社様)の大阪本社と東京本店にお邪魔させていただき、社長や社員の皆さんにインタビューをさせていただきました。実際にインタビューをすると、社員の方の表情や話し方からもその会社の雰囲気を感じることができ、理論としての組織を学ぶのみならず、実際のリアルな企業組織を学べる貴重な経験になりました。また、「M&Aの理論と実務」では、実務の理論的な話に加え、先生の実体験や著名な経営者の方の言葉を交えた講義になっており、知識としてM&Aを学ぶだけでなく、その本質は何かを考えることができました。これらの講義は、まさに一橋ビジネススクールが掲げる「理論と現実の往復運動」により学びを深めるものだったと思います。
今回、企業派遣というかたちで集中して学ぶ時間を職場からいただきました。今後の目標は常に学び続けていくことです。頻繁な人事異動を理由に、その時の業務に必要な知識を詰め込むことに必死になってしまいがちでしたが、それだけではなく、自分が課題意識や興味関心を持つ「行政として社会に対して何ができるのか、公共の役割とは何か」ということを追求したいと思うようになりました。公務員としての日々の業務のもう一段階上のところで、自身が所属している行政で何ができるのかという視点を持ちながら、体系的に学び続けていきたいです。
社会人になって数年経つと、学生時代と違って職場ではそんなに手取り足取り教えてもらえませんし、好きなことばかりではすまないということを実感してくると思います。その上で学び舎に戻って来ると、先生方は私たちの成長に資する、魅力的な材料やきっかけを提供してくれていることがよくわかります。また、同期には私と同じ社会人の方、学部新卒の方、留学生の方もいて、多様なバックグラウンドの人たちが集まっています。それぞれ思考のアプローチ方法やプロセスが違うので、これまで当たり前だと思っていた職場のやり方が当たり前ではなかったことに気づきます。講義を通じて先生方から学ぶとともに、グループワークで多様な思考のアプローチ方法に触れ、それを自分の中に取り入れることができるというのが、フルタイムで仲間とともに学べる経営分析プログラムの大きな魅力だと思います。
(2025年7月)