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「戦略的リーダーシップ」ゲスト講師・株式会社JEPLAN会長 岩元美智彦氏~みんな参加型の循環型社会

2025年09月30日

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本年度から新たに夏学期集中講義として開講された「戦略的リーダーシップ【三枝匠経営者育成基金寄附講義】」(担当教員:藤原雅俊経営管理研究科教授)では、企業や事業を牽引してきたリーダーの方々との対話を通じて経営観と戦略観を養い、経営リーダーとして成長するきっかけを掴むことを目的としています。講義は、主にケーススタディとゲスト講師との対話の二本柱によって成り立っており、ケーススタディを通じて経営現象に関する理解を深めた後、ゲスト講師の経営リーダーによる講義や対話を行ないます。

7月28日には、株式会社JEPLAN会長 岩元美智彦氏をゲスト講師としてお招きし講義を行ないました。岩元氏は、環境ベンチャー企業であるJEPLANの共同創業者の一人で、循環型社会の重要性を世界に発信しています。これまでに日経ビジネス「次代を創る100人」や、地球課題に取り組む国際組織・アショカ(米国)のフェローに選ばれるなど、国内外で注目されるビジネスリーダーです。講義では、岩元氏の経営理念を大いに語っていただきました。

<JEPLANグループ概要>

「あらゆるものを循環させる」をミッションに掲げ、サーキュラーエコノミーの実現を目指しています。廃 PET(PET ボトル、ポリエステル繊維等)を対象に、独自の PET ケミカルリサイクル技術を用いて分子レベルに分解し、不純物を除去することで、石油由来と同等品質の再生素材に生まれ変わらせています。この独自技術を用いて、リサイクルに取り組むことで、限りある資源の循環を実現し、CO₂の排出量削減にも寄与しています。

「経済・環境・平和」を目指して起業

私が取り組んでいるのは、循環型社会の構築です。42歳の時にたった120万円で作った小さな会社の目標は、「経済・環境・平和」でした。壮大なテーマのように聞こえますが、一人ひとりの行動変容の積み重ねが大きな動きとなって、やがてグローバルな流れとなるという実績をいくつも作ってきました。そのために必要な要素は、「全員参加の仕組みづくり」「技術」そして「地上資源」です。

全員参加の仕組み~「正しいを楽しく」

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私は、循環型社会は「消費者」あるいは「みんな」で作るものであると考えています。消費者が自ら行動を起こすことが必要です。ではどうすればリサイクルが上手くいくのかを消費者にアンケートで聞いてみたところ、「買った店舗での回収」という声が多くありました。そこで、実際に店頭に回収ボックスを置いてテストマーケティングを行なったところ反応が良かったため、おもちゃ屋や文具店、携帯電話の販売店、アパレルショップなどさまざまな企業と協力して店頭での回収を実施しました。衣類回収については、現在、100社以上の企業が参加して、全国1431ヶ所(2025年7月1日現在)にハチマークが目印の回収ボックスを設置しています。また、リサイクル原料をもとに新たな製品を作る協力メーカーも増えてきました。店頭での回収と、それを再生した素材による製品づくり、そして魅力的なマーケティングという循環型の仕組みを構築しています。

キーワードは「正しいを楽しく」です。正しいことだけを言っていると参加する人が限られますが、楽しくすることで参加者が増えて、世の中を変えていく流れが生まれます。そこで思いついたのが、私が学生時代に観たハリウッド映画の再現です。その映画に登場する車型タイムマシンは、ゴミを燃料にして走る設定になっています。映画を初めて観た時、いずれそうした時代が来るだろうと思いました。それから数十年が過ぎて、実際にゴミで車両を走らせてみようということで、映画に登場したタイムマシンのレプリカを購入し、日本でイベントを行ないました。映画では未来とされた2015年10月21日午後4時29分にタイムマシンを走らせる。これは大反響を呼び、日本をはじめ各国のメディアが世界中に発信し、翌日には「感動した」「夢を叶えてくれてありがとう」というメッセージが山のように届きました。

もう一つ、大きな注目を集めたのは、2021年に東京で開催された国際スポーツ大会で、携帯電話を集めてそこから取り出した金銀銅でメダルを作るプロジェクトを実施しました。世界で初めて地下資源に頼らないメダルができたのです。他にも楽しくリサイクルを行うことでより多くの人々の共感を呼び、さらに企業パートナーが増えてきました。

技術~ケミカルリサイクル技術で何度でもリサイクル

JEPLANでは、化学的リサイクルの技術を開発しました。ペットボトルやポリエステル繊維などの使用済みのPET製品を分子レベルまで分解し、色素や金属などの不純物を取り除くことで、石油由来と同等品質の再生PET樹脂にリサイクルすることができます。物理的なリサイクルでは、色がついたものやたばこなどゴミが入ったペットボトルは使えませんが、ケミカルリサイクルではそれらも対象にできます。分子レベルまで分解するので、劣化の問題もなく何度もリサイクルが可能です。

地上資源~世界平和のために

石油のような地下から採取する「地下資源」に対して、使用済み製品に含まれる資源を「地上資源」と呼んでいます。私は、地上資源は環境の問題だけではなく、平和につながるものだと思っています。人類は、地下資源を巡って争い、戦争を起こしてきました。ですが、地上資源を活用して循環型社会を作れば、資源をめぐる争いは減るのではないでしょうか。また、地上資源の国内循環に変えることで、原油価格や為替の変動による影響も受けなくなります。こうした取り組みの一環として、これまでに56の自治体と循環型社会の実現に向けた連携協定を締結してきました。北海道と九州は特に力を入れており、当社のペットリファインテクノロジー(神奈川県川崎市)のように年間ペットボトル約10億本分にあたる2万2000トンを処理できる工場がいくつかあれば、ペットボトルの水平リサイクルが可能になるため、ペットボトルを新たに製造するために海外から石油を輸入しなくてもよくなるのです。

地上資源によるプラス面として、障碍者の就労支援もあります。リサイクルには分別が必要であり、昨年から就労継続支援B型事業者と契約し、分別を委託しています。リサイクルの広がりに伴い分別する量も増えており、それが就労支援にもつながるという循環を作りました。B型事業所は全国で3000か所もあるので、この仕組みを広げていきたいと考えています。

新たなチャレンジ~自然由来の粘土

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自然に還る粘土

PET樹脂のリサイクルはJEPLANで行なっていますが、私はいま別の取り組みとして、子どもたちに対する循環型社会の学習活動用に、もっと身近に感じられる粘土製品の開発に取り組んでいます。現在販売されている工作用の粘土は、石油由来のものでできており、ゴミとなったときに何年も分解されないままです。しかし、でんぷんを原料とすると、遊んだあとに花壇に置いておけばダンゴムシやミミズが食べてくれて最終的に自然分解されます。粘土には植物に必要な栄養素も混ぜており、子どもたちは自分が遊んだ粘土が肥料となって、きれいな花や美味しい野菜になるという体験をすることもできます。

私たちの便利な生活の裏側には、資源争奪のための戦争が起きているのも事実です。資源争奪戦争を武力で止めるという人もいますが、私は循環型社会によって問題解決が図れると思っており、皆さんと一緒にそれを実現していきたいのです。

学生からの質問

岩元会長と同じ思いや熱量を社内でどのようにして保っているのでしょうか?

岩元氏

7-8人で創業し、今では社員数が100人を超えています。色々な社員がいるので、方法論は異なりますが、上位概念を共有することが大切です。共同創業者の髙尾とは、年齢が離れている上に、私が文系で彼が理系という違いがありますが、目指す社会は一緒です。他の社員たちも同じで、タイムマシンをゴミの燃料で走らせた時には、その瞬間に全員が感動して目指す社会を共有できました。

学生からの質問

スタートアップにとって、大企業との取引はハードルが高いように見えますが、どのように突破してきたのでしょうか?

岩元氏

大企業の中で私たちの考え方に共感してくれる人は、簡単には見つかりません。ですから、そういう人に出会うまで毎日通いました。1社で500枚くらいの名刺があるほどです。そのうち思いが通じる人が出てきて、少しずつ前進し、最後は経営トップにまで会えました。とにかく自分の思いを言い続けることです。ただ、相手のことを理解することも大切です。ベンチャー企業が「大企業や役所が理解してくれない」とよく言いますが、そうではなく、自分たちの勉強が足りないということもあります。例えば、稟議書の書き方とか、与信の仕方など実務を知ることは必要ですし、とても大切です。

学生からの質問

競合関係をどのように見ていますか?

岩元氏

競合という対立軸で捉えるのではなく、いかに仲間にして巻き込むかということを考えています。リサイクルについて一例を挙げると、従来の物理的リサイクルの企業との間で、彼らがペットボトルを切断する時に出る粉を当社がケミカルリサイクルの原料として引き取るという体制を作りました。10年かかりましたが、お互い上位概念が共有できていたので実現したことです。石油産油国も同じで、彼らも地球温暖化への危機感があるので、アラブ首長国連邦では当社のケミカルリサイクル技術を導入した工場建設について協議中です。循環型社会は、まだ始まったばかりです。

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岩元氏のトレードマークのポーズで

岩元美智彦氏

1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業マンとして勤務していた1995年、容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年1月、現代表取締役社長の髙尾正樹氏とともに日本環境設計(現JEPLAN)を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。

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