2025年10月07日
9月9日、10日に経営分析プログラムの学生がスタディツアーを行ないました。本研修プロジェクトは、経営管理研究科が主催し、三枝匡経営者育成基金から一部支援をいただき実施しているものです。このスタディツアーでは、企業訪問を通じて製造現場における⼯程管理や改善活動、技能伝承に関する実際を学ぶとともに、経営陣との対話を通じて企業経営の要諦に関する理解を深め、将来産業界で活躍する経営⼈材となるための能⼒を涵養することを目的としています。この目的に沿って10日午後には、精密⼩物ばね製造企業として知られる株式会社ミクロ発條の本社および工場を訪問しました。
ミクロ発條は1954年に創業し、カメラ用のばねの生産から始まり、現在では電子機器、文房具、自動車部品、医療機器、半導体などさまざまな分野で精密ばねを作り続けています。中でもボールペンの最先端部に使われている極小なばねは、世界シェアNo.1です。また、日本の匠の技と言える高度な精密加工の技術を持ち合わせていて、同社製品の極細線ばね(SUPER FINE SPRINGS)は、半導体検査装置のプローブピン部品に採用され、現在は外径0.060mm未満※の加工にも挑戦しています。訪問の際には、代表取締役社長の小島拓也氏より工場をご案内頂くとともに丁寧な事業説明をいただきました。大変実りの多い機会となり、参加者からは次のような感想がありました。
※日本人の平均的な毛髪の太さは0.07~0.08mm程度
渡辺碧さん
ミクロ発條では社員を「ミクロ一味」と呼び、全社員で微細ばね工場の世界一を目指すという目標を共有しています。私は「経営組織」の授業がきっかけで、歴史ある企業がどのように組織変革を行い、社員に新しい目標を共有しているのかという点に関心がありました。そこで、小島社長との質疑応答では、組織改革と目標共有の効果についてお話を伺いました。
小島社長の就任当初は中国市場の業績低迷などにより社内に活気がなかったため、社長はこの状況を打破すべく、組織改革を決意したそうです。具体的には、社員を「ミクロ一味」と呼び、全員で世界一のばね工場を目指すという明確な目標設定を行いました。ばね製造は自動化が進む一方で、人による精密な作業が不可欠です。会社の最も重要な資産である社員を「一味」と表現することで、一人ひとりの当事者意識を高める狙いがありました。更に、掲げた目標を実現するため、新分野の開拓などを通じて世界一にふさわしい実績を積み上げていきました。このような取り組みの結果、社内に活気が戻っただけでなく、部門間の連携も密になりました。特に現在では、生産現場と技術部門の強固な連携により、生産性の向上と更なる品質改善が実現できているそうです。
今回の訪問を通じて、ミクロ発條は「ミクロ一味として世界一を目指す」という明確な目標を全社で共有できているからこそ、社員一人ひとりがプロ意識を持って仕事に取り組み、それが会社の業績向上へと結びついていることが理解できました。
河村颯人さん
今回の訪問では、小島社長から微細ばねという市場の特徴や事業経営の実情をうかがった後に、実際の工場を見学しました。髪の毛よりも細いばねの実現のみならず、安定供給に向けた生産管理・品質管理の現場を直接拝見し、その技術力の高さに圧倒されました。現場でさまざまな方が試行錯誤しながらも協力し合っている姿から、組織の風通しのよさと働きやすさも伝わってきました。
小島社長のお話の中で、「新たな分野に出ていく」「現場第一主義」というフレーズが印象に残っています。新たな分野に出ていく、という点では、技術展に出展するだけでなく、メーカーから相談があった際には、実際にそのメーカーの製品に関する展示会を見学されているそうです。BtoB・中小企業だからこそ、「仕様をクリアしたばねを作れるか」だけでなく、最終製品の市場が拡大していくのか、事業採算性が取れるのかという点に気を遣われているとのことでした。
現場第一主義、という点では「品質は全てのかなめである」として、作られる・使われる全ての現場における品質を担保することを意識されているということです。「現場」というと自社の生産・開発環境に目が向きがちな中、出荷先の「使われる現場」にも配慮して製品の品質を作りこむ姿勢に感銘を受けました。
景玲さん
2024年8月から稼働している新工場は、創業に縁のある諏訪市役所の斜め前の区画にあり、1階エントランスを一般の方も利用できるカフェとして、人や街に開かれた設計になっているのが特徴的です。カフェは、お客様との打合せや従業員の休憩の場としても活用されています。そして、エレベーターで上がった先には「世界一のばねを作る『ミクロ一味』の秘密基地」があるというデザインで、「工場が街の灯りになる」という企業の姿勢を体現しているそうです。
工場フロアでは、「材料→成形→熱処理→洗浄→検査」といった工程がコンパクトに連なり、微細寸法のばねが効率よく仕上がっていきます。特に印象的だったのは、すべての業務においてスピード対応を心掛けているということです。同社の競争力は「4つのミクロ・バリュー」(生産キャパシティ/顧客ニーズ対応力/問題解決力/グローバル対応力)に集約されていますが、その中核にスピードを位置づけているのは、電子製品や自動車の領域は技術の進化が速く、開発・製造の立ち上げ速度そのものが価値になるからだといいます。
同社はまた、品質をすべての要とし、現場中心の改善を重視しています。品質で失注した案件をあえて共有し、検査の方法や工程見直しへとつなげる姿勢が、微細領域での安定生産を支えていると感じました。