HUB-SBA MAGAZINE

2025年度 経営分析プログラム基礎ワークショップの報告会が行われました

2026年02月16日

去る12月に修士1年生必修の演習科目「基礎ワークショップ」の報告会が、本学インテリジェントホールにて行われました。このワークショップは、春夏学期の導入ワークショップに続くもので、グループで一つのテーマについて研究を進めます。当日は、A・B・C各クラスの代表チームから、導入ワークショップでの研究を踏まえた、さらに磨かれた発表がありました。また、コメンテーターとして参加された修士2年の先輩方からは、各発表に対して今後の研究につながるアドバイスをいただきました。グループでの発表は今回で最後となり、今後は2年次ワークショップでの中間発表に向けて個人研究を進めていきます。さらに、この基礎ワークショップでの学びを生かしながら、研鑽を重ね、最終目標のワークショップレポートの完成を目指します。

基礎ワークショップAクラス代表
研究課題:銀行と政策保有株式
―銀行の政策保有株式の削減行動の要因―

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政策保有株は純投資目的ではなく、企業が他社との営業上の関係などを構築・維持するために保有している株式で、主な保有主体は金融機関です。株式の政策保有は、保有先企業にとっての安定株主の存在により経営の監視機能が弱まる懸念があり、保有する側にとっては会計上の保有目的が不明確になりやすく、企業価値の最大化や資本効率向上を阻害する可能性があります。中でも銀行は、規制業種のため保有先の事業会社との協業による企業価値向上は考えにくく、さらに債権者でもあるため株主の立場との利益相反となり、政策保有株が企業価値に寄与しないと考えられます。また、銀行も政策保有株式の削減を目指してはいますが、依然として削減のスピードは緩やかであるというところに、問題意識を持っています。

私たちの研究では "銀行"にフォーカスを当て、銀行が政策保有株式を削減させる要因について仮説を立てました。一つ目は、経常収益や当期純利益が減少した際の利益調整のために政策保有株式の売却を進めるという仮説です。二つ目は、国際的な自己資本比率向上の規制により、リスク資産となる政策保有株式の削減額が増加するというものです。そしてガバナンスコード改革で企業の政策保有株の保有目的・経済的合理性を開示・検証することが要請され、その結果、政策保有株式の削減額が増加するという仮説です。

調査では、企業固定効果を除いた上で推定していく固定効果モデル(One-way Fixed Effects Model)を用いて、被説明変数を政策保有株式の削減額、説明変数を経常収益・当期純利益・自己資本比率として分析しました。分析の結果、当期純利益が減少すると、「利益調整」のために、政策保有株式を売却していることが示されました。ただし、今回は国際統一基準行を対象に14行についての調査・分析に留まっており、分析対象を地銀など経営タイプが異なる銀行に広げることで新たな示唆が得られる可能性があります。また、政策保有株式の中身についても「相互保有」「一方的保有」を分けて分析の精度を上げる必要があると考えています。

基礎ワークショップBクラス代表
研究課題:キャラクターマーケティングにおける運営の施策が消費者の態度変容にもたらす影響について
―⼤阪・関⻄万博公式キャラクター「ミャクミャク」における認知的不協和の解消プロセスを例に―

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「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の公式キャラクター「ミャクミャク」は、公式発表時(2022年)の消費者からの評価は低く、否定的な反応を多く受けましたが、3年という短期間で現在の好意的な評価へと転換しました。私たちの研究のリサーチクエスチョンは、このような消費者のミャクミャクに対する心理的態度の変化が起こったメカニズムについて、仮説を立て調査・検証しました。

分析にあたっては、在京・在阪キー局10社のニュースアカウントがYouTubeに投稿した、ミャクミャクの動画に対するコメント(256動画・11404コメント)を収集しました。それらのコメントをML-Ask(エムエル・アスク)という日本語テキストから感情を自動推定する手法を活用し、内容を10種類の感情に分類しました。次に、運営側の取り組みを時系列で整理したものに、ポジティブな感情ポイントが増加した週を特定し、取り組みと消費者のポジティブな評価とを照合して仮説を検証していきました。投稿数や感情ごとの出やすさによる偏りをなくすためにデータを標準化し、上位約15%の範囲内の値のみを着目イベントとして扱いました。感情ポイント上位の突合した上で、その着目する期間の分析および、TF-IDF分析により重要語を探しました。

分析の結果として、ミャクミャクの着ぐるみの稼働による身体性の付与や、おしゃべりをしたことによる人格の追加によりミャクミャクに対する心理的な態度が変化したことを示唆する結果を抽出しています。さらに、開幕後を中心とした露出・接触機会の増加は単純接触効果により態度好転に貢献、多種多様なグッズ展開が好意的な感情増加させたことをあわせて提示しています。ただし、これらの結果は、テレビ局のニュースアカウントに依拠しているがゆえに、コメントデータに偏りが残っている可能性がある点、他キャラクターとの比較などが行われていないなどの課題も残されています。

基礎ワークショップCクラス代表
研究課題:公的組織における昇進構造
―キャリアの不確実性解消に向けた定量分析―

公的組織に所属するメンバーを含む私たちのチームは、公的組織の人事システムにおいて評価ロジックがブラックボックス化し、キャリアの不確実性が高まっているのではないかという現場の実感を問題意識として、昇進構造に着目しました。

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リサーチクエスチョンは、公的組織の職員のキャリアにおける経験職能分野数が、昇進にどのような影響を与えるのか、としました。先行研究は中枢部門の経験が昇進に対してプラスの影響があることを示唆していますが、「経験した職能分野の数」が昇進に対してどう作用しているかは、定量的に解明がされていません。そこで私たちは、「中枢部門経験年数が多いほど、部長へ昇進しやすい」「経験職分野数が多いほど、部長へ昇進しやすい」「経験職能分野数と中枢部門経験年数の間には部長昇進確率に対する正の相乗効果がある」という仮説を立てました。

調査の対象は、山梨県庁に同時期に入庁した一般行政職員の同期グループ(1987年入庁者39人及び1988年入庁者58人)で、地方紙(山梨日日新聞)の記事から対象年度における採用者を特定し、職員録を基に入庁から退職までの全異動履歴を抽出しました。

データ分析には、特定のイベント(昇進)が「いつ発生するか」までの時間に着目する統計手法であるイベントヒストリー分析を用い、中枢経験などの要因が時間の経過に伴って部長昇進の確率を「高めるのか/低めるのか」を検証しました。

調査の結果、部長への昇進には中枢部門経験年数と経験職能分野数の両方が、昇進に対して直接の正の影響を持つことを確認しました。また、課長昇進についても調べたところ、中枢部門経験年数は正の影響を与えていたものの、経験職能分野数の影響は確認されませんでした。このことから、まず課長に昇進するためには中枢経験を積むキャリア設計が重要である一方で、部長昇進には中枢経験に加えて多様な職能分野での経験が必要となるという示唆が得られます。ただし、例えば有能な職員は早期に中枢部門に抜擢されやすい場合、観察される効果には逆因果性が含まれる点が考慮できていないといった課題も残りました。

担当教員コメント

加賀谷哲之 先生

研究内容は皆さんが企業や経済現象を鋭い問題意識を持ちながら分析し、その背後にあるロジックやメカニズムを解明することが強く意識されていたという点で高く評価できると思います。研究内容・分析アプローチもそれぞれに個性があり、興味深く拝見いたしました。興味深い分析であるからこそ、さらに踏み込んで分析すべき論点や磨いていくべき分析手法なども見えてきたように思います。今回はグループでの研究・発表でしたが、2年次は個人の研究になりますので、自分の能力をさらに上げていかないと研究はなかなかできないということを実感いただいたと思います。ぜひ冬休みを有効に活用いただきたいというのが皆さんへのメッセージです。

熊本方雄 先生

この基礎ワークショップの目的は、リサーチクエスチョンを立てた上で、整合的な分析方法を考えていくということがひとつの大きな目的だったと思います。それぞれのチームも与えられた分析方法を採用されており、大変聴き応えがあるものになっていました。今回の報告で感じたのは、どのチームもかなり苦労しながらデータを収集されているということです。2年次からのご自身の研究でも、リサーチクエスチョンをどう立てるとか、整合的な調査分析方法とは何かときっと悩まれるかと思います。やりたいことと、できることの大きなギャップにもすごく苦しまれるかと思いますが、今日の報告にあったように粘り強い分析で取り組んでいただければと思います。

高田直樹 先生

皆さんの熱量を強く感じました。前期の導入ワークショップでは研究計画を言語化するだけでも大変だったと思いますが、今回の基礎ワークショップでは、実際にデータを集め、分析まで行っていますので、より一層のご苦労があったのではないでしょうか。それでも各クラスのグループが、霧をかき分けながら一歩ずつ前に進み、最後までやり切ったことを、とても嬉しく思います。

そして実際に山を登りきると、今度はさらに高い山が、以前よりもはっきりと見えてくるものです。登っている途中は目の前の斜面に意識が向きがちですが、頂上に立って初めて見晴らしの良い景色が開け、次に目指すべき道筋が見えてきます。この半年、あるいは1年の経験を通じて、「もっとやりたいこと」や「次に取り組むべきこと」が、皆さんの中でふつふつと湧いてきているのではないかと思います。ぜひこれからも勉学に励み、皆さんが持っているポテンシャルを最大限に生かせるよう、冬休みだけでなく来年1年の時間も大切に過ごしていただければと思います。

★先輩からのアドバイス★

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M2コメンテーターからのアドバイス

Aクラス代表チームの研究については、変数の作り方など解釈しやすいものにした方が良いのではないかと思いました。今回の被説明変数では、政策保有株の削減額が減ると相関係数がプラスになるような設定になっていますが、例えば、被変数を政策保有株式の残高にすれば、増えればプラス、減ればマイナスというようにストレートに解釈できる変数になるかと思います。他の方へ説明される時にも混乱せずに済むのかなと感じました。Bクラス代表チームは、考察も限界まで挑んでいるなと好印象を持ちました。ですが、先行研究や今回の調査で出てきたいくつかの結果をいかに結び付けるか、というところに非常に苦労されたのかなと思いました。仮設設定型というところで、最後に1枚のスライドで図やモデルなどを用いて整理されるともっと分かりやすい形になったのかなと思います。Cクラス代表チームについては、この研究において、本人の能力が中枢部門の経験と昇進の両方に効いてくる変数になるので、これをどうコントロールするかというところが、こういう研究をやる上でクリティカルになってくるんだろうなと思います。そこをコントロールするためには、何をすべきか、というところを丁寧に考えられるとさらに良い研究になるかなと思いました。

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