HUB-SBA MAGAZINE

2026年度 経営分析プログラム導入ワークショップの報告会が行われました

2026年09月08日

去る7月11日に経営分析プログラムの修士1年生による、導入ワークショップ報告会が行われました。この導入ワークショップは1年生向けに開講されている必修の演習科目で、一橋ビジネススクールが重んじる少人数教育で行われています。当日は全4クラスの代表チームから研究計画や先行研究、今後の進め方についての発表がありました。コメンテーターとして修士2年の2名が参加し、先輩が後輩をサポートして意見を交わす、経営分析プログラムならではの報告会となりました。


導入ワークショップAクラス代表
食品広告におけるAI生成の開示有無が、消費者のブランド態度
およびAuthenticityの知覚に与える影響の境界条件について

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マーケティング業界においては、AIが生成する商品パッケージについて、コンテンツ制作の効率化やモデルの人件費などのコスト削減、表現の幅が広がるなどのメリットがいわれています。一方、欧州では「人工知能(AI)によって生成されたコンテンツ」の表示およびラベル付けに関して、AI生成である場合にはそれを明確にラベル表示する法的義務の適用が開始され、日本企業においても同様の動きがでています。これについて、ある食品の新商品が「AI発案」と銘打って発売され、SNS上で賛否が分かれ話題となりました。「AI生成」と表示したことで論争が起きたのであれば、それはなぜだろう、と疑問に感じたことが研究のきっかけです。こうした背景を踏まえて、本研究では次の3つのリサーチクエスチョンを設定しました。

1.食品広告において、AI生成の開示有無は、消費者のブランド態度を低下させるか
2.低下するとしたら、Authenticity(真正性)の4つの次元(連続性、信頼性、誠実性、象徴性)のうち、どの要素によって媒介されるか
3.これらの影響は、商材の特性によってどのような差があるのか

Brand Authenticityにまつわる先行研究を参照しつつ、本研究の実証方法としては、同一の商品について、異なる商品特性を訴求する広告を用意し、それぞれ「AI生成」のラベルのあるものとないものでモニターがどのような反応を示すかを分析する計画です。

導入ワークショップBクラス代表
経験財(飲食店)における生成AIレビュー
要約が購買(利用)意思決定に与える影響
ーオンラインレビューの情報過負荷に着目してー

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オンラインでサービスや商品を購入する際に、購入者は他者によるレビューを重要な情報源としています。レビューは購買率を高めるといったプラスの面がある一方、情報が多いと情報過負荷が高まり判断が難しくなるというマイナス面があることが、それぞれ先行研究によって明らかになっています。近年、生成AIレビュー要約という新しいサービスが導入されていますが、これは、多数の消費者レビューを集約し、主要な属性と評価(良い点・悪い点)を要約して提示するものです。こちらも先行研究としては、家電やPCなど「探索財」と言われる、事前の情報探索が購買を左右する商材には有効という結果が出ています。しかし、飲食店など「経験財」における生成AIレビューの影響はまだ研究が進んでおらず、本研究を通じて明らかにしていきます。

検証方法としては、同一の飲食店のオンライン情報について、少数レビュー、多数レビュー、多数レビュー+生成AIレビューの事例を用意し、一般消費者(男女20歳以上)180名程度に対して購買意志決定や認知的負荷等についてアンケート調査を行う計画です。

導入ワークショップCクラス代表
外生ショック前後の日本企業における戦略決定要因:
戦略と経営者特性の関係性

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本研究は、大きく変化する経営環境の下で、企業の戦略選択に影響を与える要因を明らかにすることを目的としています。ワークショップの課題文献として、不況下における英国綿織物産業の企業戦略の違いに関する先行研究を読んだところ、社外取締役員兼任数、取締役会人数、製品幅などが主な要因として示されていました。しかし、これらの要因は企業規模の影響を強く受けている可能性があると推測しています。また、自分たちのこれまでの経験から、「経営者特性」も大きな影響を与えているのではないかと考えています。そこで本研究では、外生ショックの前後で戦略の決定構造がどのように変わるのか、また戦略選択の際にどのような経営者特性が重要になるのかを明らかにしていきます。

分析としては、日本の上場企業(1,835社※金融業を除いた3月決算企業)を対象とし、コロナ前後の2期間(2017~2019/2020~2022の各3年度)において、戦略変数(研究開発費、財務レバレッジ、事業セグメント数)や経営者特性(個人属性、インセンティブ、在任期間等)を比較し、「戦略の定義構造はどう変わったか」を考察していきます。

導入ワークショップDクラス代表
なぜ「知られている観光資源」は宿泊につながらないのか
----長野市・善光寺と諏訪市・諏訪湖の比較から見るデスティネーション・ブランド

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現在、日本では、外国人観光客が一部の有名な観光地に集中する一方で、魅力的な観光資源を持ちながらも十分に宿泊や消費を取り込めていない地域が存在します。後者の課題解決は、地域経済の活性化に加えて、特定地域に観光客が集中するオーバーツーリズムの緩和にもつながると考えています。本研究では、観光資源が知られているにもかかわらず、実際にその地域に宿泊していない、「認知」と「宿泊行動」の間にあるズレに着目し、長野県の長野市と諏訪市を比較していきます。

魅力的な観光資源としては、長野市には善光寺、諏訪市には諏訪湖があります。しかし、諏訪市に関しては、外国人旅行者の宿泊行動に十分結び付いていない状況にあります。私たちは、長野市と諏訪市の外国人延べ宿泊者数の差は、単なる観光資源の知名度やアクセス、宿泊キャパシティの差ではなく、個別観光資源への認知を「地域全体に一泊する価値」へ変換するデスティネーション・ブランディング過程の差が1つの要因になっているのではないか考え、関係者へのインタビューなどを行い、研究を進めていきます。

担当教員コメント

角ヶ谷典幸 先生 Bクラス担当
皆さんは入学してからの3カ月間で膨大な知識を得て、ディスカッションの仕方等も学んだことと思います。Bクラスについては、クラス代表を投票で選ぶ際に4回目の投票でやっと決まりました。これは、どのチームの研究も素晴らしかったという証です。MBAの集大成のワークショップレポートを完成させるまでにはあと1年半、引き続き努力をしていただきたいと思います。

"袖すり合うも他生の縁"といいますが、同期、先輩、教職員と出会ったのは偶然ではなくて、やはり縁があって出会っているわけです。ですから、この縁を十分生かして、もっともっと成長して、また良い報告を聞かせていただきたいと思います。

中村英仁 先生 Dクラス担当
素晴らしい研究計画ばかりでした。皆さんが入試の前にイメージしていた研究計画と今出来上がった研究計画を比べてもらうと、だいぶイメージが違うんじゃないかと思います。その上で、MBA修了時に身につけているべき能力について考えてもらいたいことがあります。

それは問題をめぐる2つの能力です。一つ目は、会社や上司から与えられた問題を適切な理論やデータ分析法を用いて効率的に解決するという能力。もう一つは、まだ問題として定義されていない現実を理解して、"何が起きているのか"、"それが何で問題なのか"ということと、そして、"それがなぜ経営上重要なのか"、"どういうふうにその原因が成り立っているのか"ということを自分で定義する能力です。今後は事務職やコンサルタント、管理業務といったホワイトカラー(知的労働)の仕事の多くが、AIに代替されていくと言われています。前者の、会社や上司から与えられた問題を解く方は、AIに代替されるでしょう。となると、皆さんには自分で問題定義をできるようになり、その中で生き残っていける力をつけていってほしいと思います。

熊本方雄 先生 Aクラス担当
今回、コメンテーターを務めた修士2年のお二方は発表資料を詳細に読み込み、さらに引用されている先行研究も事前に調べるなど相当な時間と労力を注いでくれました。お二方に感謝するとともに、修士1年の皆さんには、彼らからのアドバイスをしっかりと受け止めてほしいと思います。

研究でやりたいことと、できることは違います。1年次の導入ワークショップは、研究計画を立てる段階なので、ある程度大風呂敷を広げても構いませんが、これを実際に分析して結果を出していくには、どうしてもギャップが出てきます。"そのギャップをどう埋めるか"について、コメンテーターから経験を踏まえた貴重な意見や発表の仕方、そして、いかに説得力を持たせるかについてコメントがありました。どういうストーリー・順番で見せていくのかということと、いきなり事例を出すのではなくて、なぜその事例が出てきたのか、そこを論理的に書いていくと説得力のある研究になるんじゃないかと思います。

来年は、現修士1年の皆さんの中からコメンテーターが選ばれます。1年後にこのように成長してくれることを期待します。

高田直樹 先生 Cクラス担当
一橋のMBAの強みの一つは、「理論と現実の往復運動」にあります。これは研究を進める上でも、MBAで経営について学ぶ上でも、非常に重要な姿勢です。今回の皆さんの報告発表についても、この観点から改めて振り返っていただきたいと思います。

「理論と現実の往復運動」を行うためには、まず徹底的に調査し、対象となる現象への洞察を深めることが必要です。例えば、AI要約を研究テーマとするのであれば、「AI要約は具体的にどのような手続きや仕組みで行われているのか」といった、研究対象となる現象そのものについて詳しく理解する必要があります。関連する情報を徹底的に集め、それを十分に咀嚼した上で、自分たちの言葉で説明できるところまで理解を深めることが重要です。

その上で、必要になるのが「理論」です。理論は、個別の現象をより一般的な形で説明するための枠組みです。一方で、それぞれの理論には、研究対象となる現象が生じる背景や、理論が成立・適用する条件について、一定の仮定が置かれています。したがって、理論を表面的になぞるだけでは、研究の入口としては有用であっても、その理論が何を前提とし、どこまでを説明しようとしているのかという全体像を十分に捉えることは難しいでしょう。

そういう意味では、本日のコメンテーターのお二方から、皆さんは少し厳しい指摘を受けたと感じているかもしれません。しかし、いずれのコメントも、「その理論を本当に理解した上で使っているのか」「現実の現象をきちんと説明しようとしているのか」「皆さんが用いている理論と、実際に研究しようとしている現実とが本当にフィットしているのか」といった問いに集約できるように思います。つまり、「理論と現実の往復運動が本当にできていますか」という問いかけだったのではないでしょうか。

教員情報は こちら

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