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テーマ鼎談「イノベーション・マネジメント」①~ABEJAの戦略

2026年09月15日

株式会社ABEJAは、「ゆたかな世界を、実装する」を経営理念に掲げ、"イノベーションで世界を変える"をビジョンにしています。自社開発の「ABEJA Platform」を中核に、顧客のAI活用を実運用として成立させ、継続的な高度化を実現するエンタープライズプラットフォーム事業を展開しています。そのABEJAの代表取締役CEO・岡田陽介氏と、本学経営管理研究科の藤原雅俊教授ならびに熊本方雄教授が「イノベーション・マネジメント」をテーマに戦略や組織論、さらにAIと教育、アントレプレナーシップについて鼎談を行いました。岡田氏は、今年度秋冬学期より新たに開講される経営分析プログラムの集中講義「イノベーション・マネジメント」において講師を務められます。

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岡田氏(右側)、藤原教授(中央)、熊本教授(左側)

ABEJAの戦略

ミッションクリティカルな領域での事業展開

藤原:いまやAIは大きな技術的潮流になっていますが、貴社は2012年からその将来性にいち早く注目して事業を展開しています。まずは、ABEJAが注力している技術領域と戦略についてお聞かせいただけますか。

岡田氏:当社は2012年の創業以来、ディープラーニングやAIを先駆的に扱ってきました。現在は「ABEJA Platform」を基幹とし、企業のミッションクリティカルな領域に特化したエンタープライズプラットフォーム事業を展開しています。例えば、化学プラントの腐食配管検知やオートパイロット、損害保険の引き受け業務など、現場での思わぬミスが人命や数千億円規模の損失に直結してしまうような領域です。

藤原:なぜ、そうした非常に重大な領域で事業を展開しているのでしょうか。

岡田氏:理由の一つにAIを使ったときに発生する費用「トークンコスト」があまりにも高すぎる現状があります。トークンコストを因数分解して小さな要素で見てみると、GPU代や電気代、オペレーション費用など莫大な費用がかかる構造になっています。その構造の中で、例えば日常業務の資料作成支援のような比較的単純な領域に展開しても、大きな対価を得づらく、時給1万円をAIに払っているイメージで、ROI(投資利益率)が見合いません。1万円以上の価値を生み出すことを見据えると、ミッションクリティカルな領域でなければ、事業として利益を出すことが難しいためです。

藤原:たしかに、近年における半導体価格の高騰は、それを利用する事業の費用構造を非常に重くしていますね。高い付加価値を生み出すミッションクリティカルな領域で採用されるためのプラットフォームにとって、重要な点は何でしょうか。

岡田氏:それは、「自社プラットフォーム内ですべてを完結させる」ということです。お客様にとっては、外部接続のあるAIに企業情報を学習されないことが大変重要です。当社のシステムは、データを外部に出さない体制を徹底しているので、データ主権やプライバシーの観点でお客様に高い安心感を提供しています。

熊本:貴社のシステムでは重要な部分をAIが担っている一方、必ずそこに人間が関わるということも聞いています。それはどのように行っているのでしょうか。

岡田氏:おっしゃる通り、当社のプラットフォームのもう一つの核心が「Human in the Loop」です。AIの精度は決して100%にはならないため、人間とどう協調させるかが重要になります。当社では、人間とのコラボレーションのプロセスを5つのステップで進めています。ステップ1は、人間が直接すべての業務オペレーションを行う状態。ステップ2が、人間によるオペレーションをデータとしてデジタルに移行し蓄積する状態。そして、ステップ3では、学習したAIが賢くなり最適な判断を提案。さらにステップ4ではAIが主体となってオペレーションを実行し、予期せぬインシデント時のみ人間が介入。ステップ5ではAIが実行だけでなく改善も行いますが、最終の意思決定は人間が下します。これにより、従来膨大な時間を要していたプロセスを5分程度に短縮するなど、人間とAIの協調による大幅な業務改善を実現しています。

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競争優位性を構築する

藤原:貴社の競争優位性はどこにあるとお考えですか。

岡田氏:もともとAIをミッションクリティカルな領域で使うことはリスクが高いという懐疑的な見方が広がっていて、他社は手を出していませんでした。他社がリスクの低いマーケティング領域に集中するなかで、当社は意図的にブルーオーシャンであるミッションクリティカル領域へ参入したため、市場構造上の圧倒的なアドバンテージを獲得できました。

そうした背景もあり、当社はいわゆる「競合企業」不在のユニークなポジショニングを築けました。現在、お客様の企業が当社と比較検討する先としてはスタートアップではなく、大手システムインテグレータやコンサルティングファームです。彼らはお客様ごとにゼロからシステムを構築しますが、それと比較すると、当社はABEJA Platformを活用できるため価格が桁一つ分安くなり、大きな価格優位性とノウハウ優位性を生み出せます。また、周辺領域の特許を網羅的に押さえている点も強みです。

さらに、ミッションクリティカルな業務は一連のフローで動いています。先ほどの5ステップを段階的に進めていく中で、途中で契約を解除すればそれまでの蓄積を失うため、自ずと継続率は高まります。自社開発へ切り替えようとされるお客様もいらっしゃいますが、当社のノウハウや特許を回避して一から構築しようとすると費用が10倍近く膨らむため、結果として当社プラットフォームの優位性を再認識して戻られるケースがほとんどです。

藤原:競争戦略論の観点から見て、とても興味深く感じます。ミッションクリティカル領域が手つかずだったのはハイリスクだと考えられていたからですが、自社プラットフォーム内ですべてを完結させることでお客様の不安を払拭しつつ、人を適切に協調させることでリスクをさらに低減させているのですね。同時にノウハウを蓄積しつつ、周辺領域を特許で固めていく。展開領域の特性上、お客様のスイッチングコストが高く他社への乗り換えが起きづらいことに加え、ABEJA Platformを基盤にすることで、コスト優位性を確保するためお客様側での内製化も起きづらい。未開拓領域にいち早く参入して先行者の優位性を効かせるだけでなく、優位性が続く仕組みを複合的に埋め込んでいるように感じます。

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先行開発し続けるための組織マネジメント

先回りして待つ経営

熊本:これまでの成長過程における経営スタイルにはどのような特徴がありますか。

岡田氏:当社では自分たちの経営を「待つ経営」と表現しています。お客様だけでなく、場合によっては社内メンバーすらまだ課題と認識していない段階で、先駆的な知見に基づき先行投資して解決策を作りに行きます。そのため、プロダクトを作っている最中は「お客様もいないのに何をやっているのか」「プロダクトアウトで行くのか」と感じられてしまってメンバーとのギャップが生じやすく、離れていく人が出ることもあります。しかし、3〜4年経つと世の中が追いついてきて、お客様から「ABEJAの言っていた意味が理解できた」と評価されるようになります。ある意味「時間差タイムマシン経営」みたいなものです。

熊本:将来の市場を見据えた、極めて高度なマーケットインのアプローチと言えますね。

組織を引っ張るリーダーシップ

熊本:昨今、多くの日本企業がやや近視眼的になっていて、イノベーションを起こせず後追い的なプロダクトしか生み出せなくなっていると言われることもありますが、貴社では先見的な事業展開を継続するための組織マネジメント上の工夫はありますか。

岡田氏:誤解を恐れずに言いますと、"現場メンバーと頻繁に直接対話しない"ということです。それには理由があって、私にはシリコンバレーの個人的なネットワークや社外の知見者などから膨大な情報が集まるため、現場のメンバーとは前提となる情報量が違います。そのため、ボトムアップでの提案よりも、そうした情報を基にした判断としてトップダウンで合理的な意思決定を行う体制を基本としています。私が一人ひとりに決断の背景にある情報を丁寧に説明できれば良いですが、社内の全員となると限界があります。また話したとしても、毎回膨大な情報のすべてを伝えきることは難しく、結局情報が細切れになってしまい、戦略ストーリーが断片化して混乱を招いてしまうのです。そのため、適切な階層(ヒエラルキー)構造を構築し、整理されたストーリーとして落とし込むコミュニケーションを徹底しています。幸いなことに、これまでの実績として、ディープラーニング、大規模言語モデル、フィジカルAI、そしてプラットフォームにおけるHuman in the Loopの実装もうまく当たっています。

MBOとOKRによる人材マネジメント

藤原:急成長するスタートアップでは空中分解のリスクも付きまとい、企業によっては経営理念やパーパスを活用して社員の価値観を合わせることもあります。貴社ではどのように人材と組織の安定を図っているのでしょうか。

岡田氏:理念やクレドは解釈の幅が広く、都合よく捉えられて経営上の言い訳になりやすい側面があると思っています。変化が激しく長期的なビジョンと短期的な実行の双方を求められるAI業界において人材をマネジメントする際には、理念に過度に依存せず、解釈の余地がない解像度の高い目標設定を重視すべきだと考えています。当社ではMBO(目標管理制度)とOKR(目標と成果指標)を組み合わせた目標設定システムを導入し、中長期計画の数値と連動させながら評価を行っています*。管理ではなく明確な目標設定の仕組みを通じて組織を動かしています。

藤原:世の中の大きな潮流を捉えて開発を先回りして進めて、世の中が追いつくのを待つ間に特許で周辺領域を固めておく。先回り開発のスピードを保つために、ボトムアップよりもトップダウンでの意思決定を優先させつつ、MBOとOKRを活用して解像度の高い管理を目指す。強力なリーダーシップと、戦略を成功させることによって組織の求心力を生み出していることが感じられますね。

*
MBO(Management by Objectives):1950年代にピーター・ドラッカーが提唱したManagement by Objectives and Self-Controlを源流に持つ考え方。
OKR(Objectives and Key Results):インテルのアンディ・グローブが、MBOに基づいて1970年代に発展させた考え方。その後、インテルから投資家に転身したジョン・ドーアを通じて、1999年にグーグルが導入した。

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